会社が残業代を支払ってくれない! 未払い残業代の請求方法を解説
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中小企業庁が平成30年に発表した内容によると、2016年6月時点における那覇市内の企業数は1万2190社で、そのうち大規模企業はわずか26社でした。また、中小企業1万2164社のうち小規模事業者は1万198社と、大部分をしめていることがわかります。なお「小規模事業者」とは、人数でいうと製造業・建設業・運輸業では従業員数20人以下、卸売業・サービス業・小売業では5人以下の事業者を指します。
「残業代がきちんと払われるのは大企業だけ」そんな思い込みをしていませんか? 残業代の支払いは、規模に関わらず事業者の義務であり、支払いを拒否することはできません。
そこで、今回は労働基準法における残業代の規定や、未払い賃金の請求方法を那覇オフィスの弁護士が解説します。
1、労働基準法における残業代の規定
労働基準法では、労働者の健康を守るために労働時間の上限を定めています。これを法定労働時間といい、休憩時間を除いて「1日8時間以内、1週間で40時間以内」とされています。
また、労働基準法 第37条第1項において、法定労働時間以上勤務した場合は「時間外労働」となり、割増賃金を支払わなければならないと規定しています。
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(1)労働基準法は全ての事業者に適用される
刑法や民法と同じく、労働基準法は国民全てが従うべき法律です。
残業代の不払いが当たり前の環境で働いていると、労働の正当な対価である賃金請求権が侵害されているという意識がないかもしれません。しかしながら実質的にタダ働きを強制されているのと同義ですから、労働力の搾取であり許されない行為です。 -
(2)残業代が請求できないケース
残業代の支払い義務は定められていますが、例外的に残業代の支払いが受けられないことがあります。
代表的な4つのケースを見ていきましょう。
●給与に固定残業代が含まれているケース
固定残業代(みなし残業代)とは、実際にどれだけ働いたかではなく、最初から月ごとの時間外労働の賃金を給与に含めておくという仕組みです。
たとえば、雇用契約などに「みなし残業代10時間を含む」と記載されている場合、10時間以内の残業であれば、別途の残業代支払いは不要です。
もちろん、みなし残業時間以上の残業をしたのであれば残業代が発生します。
●裁量労働制のケース
研究職やデザイナーなど専門性の高い業種や、企画・分析調査に携わる職業の場合、会社側は出退勤時間を限定せず、業務を労働者の裁量に委ねることができます。
これを裁量労働制と呼びます。裁量労働制では労働時間に関わらず労使協定(労働者と使用者の結ぶ協定)で定めた時間の労働をしたとみなすので、やはり残業代は生じないということになります。
しかし、深夜勤務や休日出勤による労働には賃金が発生するため、これらについては未払い分として請求することができます。また、運用実態が労使協定の内容と異なっている場合は、そもそもの契約が無効になる可能性があります。
●フレックスタイム制のケース
出退勤の時間が会社に決められておらず、労働者自身で自由に決められる制度がフレックスタイム制です。フレックスタイム制では1日単位で見ると8時間以上勤務することもありますが、それだけでは残業にあたると判断はできません。フレックスタイム制の場合は、会社が定めた清算期間のなかで、法定労働時間の総枠を超えた分が時間外労働して扱われるためです。
たとえば、清算期間を1か月と定めたケースで考えてみます。
1か月の法定労働時間の枠数は、31日ある月で177.1時間、30日ある月では171.4時間です。清算期間である1か月の労働時間は、31日ある月の場合は177.1時間以内に収めなければならず、超えた分は時間外労働として扱われます。
●管理職であるため残業代が出ないケース
労働基準法 第41条第2号において、管理監督者は労働時間や割増賃金などの条項を適用しないと定められています。
労働基準法でいうところの「管理監督者」とは、次のような人のことを指します。- 人事や経営に発言権がある
- 勤務時間と仕事内容に十分な裁量を持たされている
- 一般社員と比べて十分に高い報酬を受け取っている
書上は管理職であったとしても、職務権限や手当の実態を見ていくと「管理監督者」にはあたらない、名ばかり管理職というケースも少なくありません。
労働の実態が管理監督者に該当しない場合は、会社側に残業代の支払い義務が生じます。 -
(3)制度と実態が懸け離れているならば相談を
残業代の請求において、重要なのは労働の実態です。
労働状況が雇用契約の内容と著しく乖離(かいり)している場合や、正しく制度が運用されていない場合は、契約自体が無効になることもあり得ます。
法定労働時間や労使協定で定めた労働時間を大幅に超過して働いくことが常態化しているのであれば、弁護士などの専門家に相談してみることをおすすめします。
2、残業代を不当に支払わない会社は罰則を受ける?
残業代の不払いがある場合は、労働基準監督署に通報することで、会社に指導がはいることもあります。
しかし、長時間労働をしてきた労働者からすると、会社が指導を受けるだけでは納得ができないかもしれません。会社が、罰則などを受けることはあるのでしょうか。
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(1)労働基準法違反による送検
労働基準監督署からの指導があったにもかかわらず、それを無視し是正しないなど悪質と判断された事業者は、労働基準法違反によって送検される可能性があります。
罰則は、労働基準法 第119条第1項および第121条の規定により、法人としての会社、または経営者個人、あるいは両方に対して「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」です。 -
(2)厚生労働省労働局サイト上で社名を公開される
会社が送検された場合は、地域の労働局により「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として会社名や事案概要が公表されます。
那覇市の事業者の場合は、沖縄労働局のサイトに掲載されることになります。 -
(3)未払い残業代だけでなく付加金等の支払いが科される
労働者から未払い残業代の支払いを求めて民事訴訟を提起され、判決によって未払い残業代の支払いが命じられた場合は、未払い残業代に加え、これと同額の付加金の支払いを裁判所に命じられることもあります(労働基準法第114条)。
3、未払い残業代の請求方法と弁護士に依頼するメリット
未払いの残業代を請求するには、交渉、労働審判、訴訟という3つの方法があります。それぞれの方法を解説しつつ、弁護士へ依頼するメリットについて説明します。
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(1)交渉による請求
まずは、書面や面談によって会社側に未払いの残業代の支払いを求めます。
もちろん、労働者本人による交渉も可能です。交渉に応じてくれる会社であれば、今後も安心して働き続けることができるでしょう。しかし残念なことに、交渉に応じない会社が少なくありません。
会社がまともに応じてくれないような場合は、弁護士に代理人となってもらい交渉を一任すると良いでしょう。弁護士を立てることで、大ごとにしたくないと考えた会社側が、交渉に応じることが期待できます。弁護士が代理人となることで、会社側と顔を合わせる必要がなくなることも、大きなメリットといえます。
また、実際に未払いの残業代があるかを判断し、正確に残業代を算出するのは簡単ではありません。弁護士は法的に有効な証拠を集め、未払い残業代の金額も正確に算出することができるので、確かな情報を元に残業代を請求することができます。 -
(2)労働審判での請求
交渉で合意に至らなかった場合や、会社が交渉に応じない場合は、裁判所に労働審判を申し立てます。
労働審判では、1名の労働審判官(裁判官)と、労働問題に関して専門知識を有する2名の労働審判員から構成される労働審判委員会が開かれます。
第三者である労働審判委員会が、労使それぞれから話を聞き双方の意見をすり合わせていきます。直接交渉よりも紛争の解決率が高く、また3回以内での解決が原則となっているので2~3か月ほどで話がまとまるという特長があります。
労働審判に際し、会社側は対応を顧問弁護士に依頼する可能性があります。そのため、労働者側も労働裁判の知見が豊富な弁護士に依頼し、サポートを得ることをおすすめします。 -
(3)訴訟による請求
労働審判において出された審判内容に、どちらかが異議を申し立てた場合、民事訴訟を提起することになります。訴訟となると、解決まで長い時間がかかることもあります。
裁判への出廷、各種申し立ての手続き、証拠集めや交渉など、個人で行うのは難しい手続きや対応が多いため、訴訟になった場合、弁護士のサポートは必須となるでしょう。
4、まとめ
社内では当たり前のルールであったとしても、法律に照らせば到底許されない場合も少なくありません。会社の規模に関わらず、またどのように理屈をつけようとも、労働の正当な対価は受け取るべきです。
しかし、個人が会社に対して申し入れを行うのは、勇気がいるでしょう。失敗したときのリスクも考えるかもしれません。結果として、泣き寝入りしてしまう方も少なくないのです。
サービス残業が横行している、残業代が支払われないなどのトラブルを抱えている場合は、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスの弁護士にご相談ください。社内で不利益を受けないよう十分に注意を払いつつ、労働に対する正当な対価として残業代の支払いを会社に求めます。
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