便乗解雇とは? 不当解雇を疑ったときに労働者が確認するべきこと
- 不当解雇・退職勧奨
- 便乗解雇
那覇市が公表している情報によると、令和2年11月現在、沖縄県内における新型コロナウイルス感染症の患者は増加傾向にあり、警戒レベル第3段階「感染流行期」の状況が継続しています。この状況が大きく改善するのには、まだ時間がかかると予想されます。
新型コロナウイルス感染症による影響は企業にも及んでおり、業績の悪化を理由に労働者を解雇に踏み切る企業も後を絶ちません。ところが、中には、実際には従業員を解雇しなければならないほどの業績悪化はないにも関わらず、ただそうした世の中の流れに便乗しているだけではないか、と思われる解雇(いわゆる便乗解雇)が発生しています。
使用者による一方的な解雇は、法律によって厳しく規制されています。もし、違反しているとなれば、不当な解雇として解雇自体が無効とされる可能性があるのです。
本コラムでは、便乗解雇と考えられる解雇を言い渡されたときに労働者がすべきことを、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスの弁護士が解説します。
1、便乗解雇とは
便乗解雇とは、法律用語ではなく明確な定義はありませんが、一般的には、世間の流れに便乗して、正当な理由がないのにもかかわらず労働者を解雇することを指して使われることが多いでしょう。
たとえば、平成23年3月11日に起きた東日本大震災では、直接被災していないにもかかわらず、震災の影響で売り上げが落ちた、などとして労働者を解雇するケースが発生しました。
昨今では、実際には新型コロナウイルス感染症による影響を受けていないにもかかわらず、まるで影響を受けて業績が悪化したかのように理由付けをして、労働者を解雇するケースが少なからず発生していますが、これらも便乗解雇と考えられます。
2、解雇に納得できない場合に注意するべきこと
便乗解雇の特徴は、「世の中の景気も悪いから仕方ない」「売り上げが悪いなら、成績のよくない自分は解雇の対象だ」などと、労働者が諦めて受け入れてしまいがちな点です。
しかし、前述の通り、会社が労働者を解雇するためには、厳密なルールが設けられており、簡単に解雇にすることはできません。
少しでも納得できない点があり、会社との話し合いを希望する場合は、次の点に注意する必要があります。
-
(1)退職届は出さない
解雇という形を取らずに、従業員に退職するよう促してくる会社もありますが、そのような場合であっても退職届を出してはいけません。たとえ、会社から退職合意書にサインを求められたとしても断りましょう。退職届の提出や書類に署名をしてしまうと、解雇ではなく自己都合による退職とみなされてしまいます。そして自己都合による退職の無効等を主張するのは、解雇の無効を主張するよりも一般的に言って困難です。
会社から解雇を伝えられた場合、まずは会社に解雇通知書(解雇理由証明書)の発行を求めて、解雇に正当性のある理由があるのか、そして就業規則等の定める手続きを踏んでいるのかを確認しましょう。
また会社から退職を求められても、安易に退職届を提出したり、社員証を返還したりするなど退職を受け入れていることを前提とするような行動は取らないようにしましょう。 -
(2)解雇予告手当や退職金は受け取らない
解雇をする場合、使用者は労働者に対して30日より前に解雇予告をしなければなりません。もし、解雇まで30日に満たない場合は、労働基準法第20条第1項で規定されているとおり、解雇予告手当を支払う必要があります。
ただし、解雇に納得できない場合は、解雇予告手当は受け取らないようにしましょう。受け取ってしまうと、解雇を認めたとみなされる可能性があります。
同様に、退職手当(退職金)も受け取りを、留保するようにします。
ただ解雇の無効を主張しながら解雇予告手当を受け取るということが、全くできないというわけではないので、弁護士にご相談ください。
3、解雇が認められるケース
解雇は、大きくわけると「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3つの種類があります。
正当な解雇なのか、不当・無効な解雇なのかを判断するためには、それぞれの解雇が有効となる要件を、理解しておく必要があります。
-
(1)整理解雇の4要件を満たしている場合
整理解雇が正当とみなされるためには、4つの要件を満たしている必要があります。
① 人員削減の必要性
業績の悪化など、人員削減措置を行わなければいけない具体的な根拠が求められます。
② 解雇回避の努力
2つ目が、解雇回避の努力です。
経営難だとしても、企業はすぐに解雇を実施できるわけではありません。解雇を避けるための努力(退職を希望している労働者を募集する、従業員の配置を換えてみるなど、新規採用を見合わせる、役員報酬のカットを行う等)が行われたかは重要な要素です。
③ 人選の合理性
解雇の対象者を決める基準について、客観的な根拠のある合理的なものであること(当該従業員の能力・実績、その従業員を解雇した場合に従業員側に生じる不利益の程度等を考慮した基準であること)が求められます。
④ 解雇手続きの妥当性
使用者は、労働組合(労働組合員)や労働者に対し、整理解雇を実施しなければいけない事情、実施する時期や規模、方法について具体的に説明し、理解を得る必要があります。
整理解雇の妥当性は、以上4つの要素が考慮されます。たとえ、会社の業績悪化や売り上げ減少を理由にされたとしても、上記の要件を満たさず、突然に解雇を言い渡されたような場合は、不当解雇の可能性があるでしょう。 -
(2)普通解雇・懲戒解雇が認められる場合
解雇には、労働者本人に解雇理由がある場合に行われるものもあり、普通解雇と懲戒解雇がこれに該当します。
普通解雇とは、勤務態度や能力の不足といった問題があり、改善が見込めない場合に行われる解雇です。たとえば、 使用者が何度も注意しているのに遅刻・欠席が直らない、協調性に欠けた言動を繰り返している場合など、普通解雇の正当性が認められる可能性が高いでしょう。
ただし、成績が悪いことを理由としていながら、解雇に先立ち、使用者がしかるべき教育・指導・注意を行っていなかったり、客観的に見て解雇させるほどに成績が悪いわけでもなかったりすれば、普通解雇は無効とみなされる可能性があります。
懲戒解雇は、会社の秩序を著しく乱すなどの行為をした場合に、制裁として行われる解雇です。
たとえば、犯罪行為で逮捕され会社の地位をおとしめた、会社の情報を競合他社に売った、レジに収納されている金銭を盗んだなどの理由があれば、懲戒解雇に合理的な理由があるとみなされる可能性があります。
ただし懲戒解雇を行うには、当該従業員の行為が、就業規則に定める懲戒事由に該当していなければなりません。
4、弁護士に依頼するべきケース
正当な理由がなく、突然解雇を言い渡された場合は、不当解雇の可能性があります。特に、次のようなケースの場合は、弁護士に相談に依頼することをおすすめします。
-
(1)不当解雇なのか判断が難しい場合
解雇を告げる会社は、もっともらしい理由を伝えてくるでしょう。納得できない場合は、会社に対抗する必要がありますが、明確に反論できる材料がなければ、解雇を撤回させることは難しいと言わざるを得ません。また、そもそも不当解雇かを労働者が判断するのは難しいケースも少なくありません。
その点、法の専門家である弁護士に依頼すれば、雇用契約や就業規則、伝えられた解雇理由やヒアリングした状況などから、解雇が正当か、不当かを法的な観点から的確に判断できます。 -
(2)退職手当や退職予告手当に関する話があった場合
解雇の無効を主張するためには、退職手当や退職予告手当を受け取らないことが重要です。
しかし、場合によっては労働者本人が受け取りを拒否しても、会社側が一方的に労働者の口座に振り込むといったケースも考えられます。
この場合、内容証明郵便で、返還の意思や未払い賃金に充当する旨を通知するなどの対策が必要ですが、いずれも迅速かつ適切な対応が求められます。弁護士に相談して、アドバイスを受けるのが良いでしょう。 -
(3)証拠が集められない場合
解雇が有効であると主張する会社側に反論するためには、従業員も解雇に合理性がないことを示す証拠を集める必要があります。
しかし、証拠となり得る資料の多くは、社内に保管されているため集めることが難しいケースもあります。また、会社側が提供を拒むことあるでしょう。このような場合、弁護士であれば、裁判所を通して証拠を開示させる証拠保全手続きを行うなど、証拠の確保に向けて対応を進めることができます。 -
(4)労働審判や裁判を起こす場合
会社によっては、証拠を元に違法性を指摘しても、話し合いに応じないケースもあるでしょう。このようなときは、労働審判による解決を検討することになります。
弁護士であれば、手続きの一切を任せられるだけではなく、少しでも有利な結果になるよう証拠の収集や論理的な主張を行います。
また、労働審判で解決できず裁判に移行した場合も、引き続きサポートを依頼することが可能です。
5、まとめ
便乗解雇は、一見すると合理性のある解雇のように感じてしまうことも多く、疑問を感じても受け入れてしまうケースが少なくありません。しかし、実際には社会の情勢を利用して、使用者の勝手な都合で行われるケースが多いので、解雇理由に納得できない場合は泣き寝入りすることなく、まずは弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスでは、労務問題によるトラブルのご相談を、広く受け付けています。お話をしっかりと伺った上で、とるべき対応や方法をアドバイスし、解決まで徹底的にサポートします。
ご相談、お待ちしています。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています