小売業で残業代が未払いになっている場合の対処法

2022年01月13日
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小売業で残業代が未払いになっている場合の対処法

平成26年7月に実施された商業統計調査の結果によると、沖縄県内には1万1245件の事業所があり、うち81.5%にあたる9166件が小売業者です。さらに市町村別の内訳をみると、那覇市には2348件の小売業者が集中していることがわかります。同調査は数年おきに実施されていましたが、現在では廃止されているため最新の状況ではありませんが、沖縄県内では那覇市に小売業者が集中しているという事実に、大きな変化はないと予想されます。

観光産業が盛んな沖縄県においては、夏休みなどの繁忙期は、お土産などを扱う小売業は特に忙しくなります。結果として、残業時間が長くなる、十分に休みが取れないといった状況に陥っているケースも少なくないと考えられます。

本コラムでは、小売業の残業時間の実態に触れながら、法律が定める休日・労働時間・賃金、未払いとなっている残業代を請求する方法について、那覇オフィスの弁護士が解説します。

1、働き方改革法案とは? 小売業に従事する労働者が知っておくべきポイント

少子高齢化による生産年齢の現象や労働者のニーズが多様化している現状をうけて、国は「働き方改革」を進めています。
改革関連法が整備されているなかで、小売業に従事する労働者が知っておくべきポイントを紹介しましょう。

  1. (1)年5日の有給休暇の取得が義務化

    休みなく働く労働者こそ高く評価されるという風潮がいまだあるなかで、有給休暇は「権利は与えられていても身勝手に取得するものではない」と考えている会社が存在するのも現実です。
    しかし、平成31(2019)年4月からは、年10日以上の年次有給休暇が与えられる労働者に対して、年5日の有給休暇取得が義務化されています。
    使用者は労働者の意見を尊重したうえで、年5日間は時季を指定して有給休暇を取得させる必要があります。

  2. (2)月60時間超の割増賃金率の引き上げ

    従来、60時間を超える時間外労働については、1時間あたり25%の割増賃金が適用されてきました。
    すでに改正法が施行されて大企業については割増賃金率50%が適用されていますが、令和5(2023)年4月からは中小企業でも50%が適用されます

    長時間の残業を強いられている労働者にとっては、待遇が改善するという意味で嬉しい改正です。会社にとっては人件費が増大する原因になるため、残業時間の圧縮に向けた対策が必要となり、結果として長時間労働を強いる環境が改善される可能性に期待できるでしょう。

  3. (3)時間外労働の上限規制

    労働基準法では、1日8時間・1週40時間を労働時間の限度として規定しています。この上限を超えて労働させる場合は、労使の間で協定を交わし、労働基準監督署に届け出をする必要があります。いわゆる「36協定」と呼ばれる制度です。
    ところが、これまでは36協定を結んでおけば、実質的に上限なく労働を行わせることができており、長時間労働の温床となっていました。

    しかし、法改正によって、時間外労働の上限が定められただけではなく、罰則も規定されました。原則として月45時間・年360時間を限度とし、これを超えるには臨時的かつ特別な事情が必要です
    規定に違反した場合労働基準法第32条違反となり、使用者は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

    なお、臨時的な特別な事情があった場合でも、無制限に時間外労働が認められるわけではなく、次のとおり上限が設けられています。

    • 時間外労働は720時間以内/年
    • 時間外労働と休日労働の合計が100時間未満/月
    • 時間外労働と休日時間の合計は、規定された期間の平均が全て80時間以内/1か月あたり(規定された期間|2か月・3か月・4か月・5か月・6か月)
    • 時間外労働が月45時間を超えることができる限度は年6か月まで
  4. (4)同一労働・同一賃金の原則

    「同一労働・同一賃金」の規定は、令和3(2021)年4月から中小企業でも導入されます。
    同規定は、正規雇用の正社員と、非正規雇用の有期雇用労働者・アルバイト・パート・派遣労働者などとの間に、不合理な待遇差をなくすことを目的とした制度です。

    正社員と非正規雇用の労働者の間に待遇差がある場合において、労働者からの求めがあったときは、待遇差の内容や理由を説明する義務が生じます。

2、小売業における「名ばかり管理職」の問題

小規模な小売店で働く方のなかには、店長などの役職を与えられたうえで「管理職なので残業代は支払われない」という待遇を受けている方もいるでしょう。
しかし、管理職としての実態が伴わない場合は、いわゆる「名ばかり管理職」であり、残業代の支払いを受けられる可能性があります。

  1. (1)管理監督者の要件とチェックポイント

    監督もしくは管理の地位にある者のことを「管理監督者」と言い、残業代や休日手当といった割増賃金は適用外として扱われます。
    ただし、管理監督者として認められるには、次の4つの要件を満たす必要があるとされています

    • 経営者と一体の立場にあり、企業全体の経営に関与している
    • 採用・部下への人事考課などの権限が与えられている
    • 出退勤について管理を受けていない
    • 賃金面でその地位にふさわしい待遇を受けている


    これらの条件を満たしていないにもかかわらず、管理監督者として残業代が支払われていない場合は、未払いの残業代が発生していると考えられます。

  2. (2)チェーン店の店長は管理監督者に該当する?

    小売業でよくみられる形態として、複数の店をチェーン展開し、店長を任せられた正社員が管理監督者の立場とされることがあります。
    しかし、実態として管理監督者とはいえないという事案が多くみられたことから、厚生労働者は小売業のチェーン店における管理監督者の判断要素を、次のように示しています(平成20年9月9日基発第0909001号)。

    (重要な要素)
    • 採用、労働時間を管理する責任と権限がある
    • 解雇、人事考課に関する事項が職務内容に含まれており関与している
    • 遅刻、早退等によって制裁や人事考課での不利益な取り扱いを受けない
    • 時間単価がアルバイトやパート等の賃金以上であること
      (特に時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素になる)

    (補強要素)
    • 労働時間に関する裁量がある
    • 労働時間の規制を受ける部下の勤務様態とは相違していること
    • 基本給や役職手当等が、実際の労働時間と比較し十分に優遇されていること
    • 一般労働者以上の賃金が総額として支払われていることる


    たとえば、営業中は常駐していたり、人員不足分を自らが勤務し穴埋めしていたりするケースは、労働時間に関する裁量があるとは言えません。このような事情は管理監督者性を否定する補強要素となるでしょう。
    また、長時間労働に従事した結果、時間単価が最低賃金額を満たさなければ、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となるでしょう

  3. (3)「名ばかり管理職」が問題となった事例

    「名ばかり管理職」について問題となった事例を紹介します。

    ● 大手ファストフード店の店長に対する残業代の未払い問題
    大手ファストフード店の店長に対して、会社側が管理職であることを理由に残業代を支払わなかった事例です。
    本事例では、月に100時間を超える残業に加えて、2か月近い連続勤務などを強いられていたにも関わらず、残業代が支払われないばかりか、店長に就任する以前よりも年収は下がっていました。
    東京地裁は、被告となったファストフード店側に対して、原告に未払い残業代などを含めた約750万円を支払いうよう命じました(平成20年1月28日判決)。その後、会社側は東京高裁に控訴していますが、控訴審では会社が事実を認め和解が成立しています。

3、小売業で残業代が未払いになっている場合の対策

会社側に未払いの残業代を請求するためには、どうすれば良いのでしょうか。

  1. (1)残業をしている証拠の収集と未払い残業代の算出

    まずは、実際に残業をしていることを示す証拠を集める必要があります。
    出勤簿やタイムカード、シフト表など、勤務状況を確認できるものを集めましょう。出勤簿やタイムカードなどが手に入らない場合は、レジの記録、会社とのメールのやり取り、自分自身で記録した日記なども証拠になる可能性があります。

    また、会社に未払いになっている残業代を請求するためには、金額を正しく算出する必要があります。算出にあたっては、労働条件や会社の規定も確認する必要があるので、就業規則や労働契約に関する資料も集めておきましょう。

    すべての準備が整った後、会社に対して未払いの残業代の支払いを請求することになります。

  2. (2)会社の相談窓口を利用する

    社内に、コンプライアンス部門や相談窓口、労働組合がある場合は、まずは相談してみるのも一案です。ただし、残業が常態化しており会社全体が黙認しているようなケースでは、誠意ある対応は期待できません。

  3. (3)労働基準監督署への相談

    労働基準監督署は、会社が労働基準法を遵守しているのかを監督する機関なので、賃金に関する問題も相談が可能です。
    ただし、労働基準監督署は会社に対する指導・勧告をする立場であり、個人のトラブルを個別に対応してくれるわけではありません。労働基準監督署からの指導等の結果、残業代が支払われる可能性もありますが、会社が従わないというケースも十分に考えられます。

  4. (4)弁護士への相談

    未払いの残業代を請求するためには、証拠を集め、未払い残業代の額を算出し、会社と交渉しなければいけません。これらを、労働者個人が行うのは簡単ではありません。

    その点、弁護士に相談すれば、どのようなものが証拠になり得るのかといったアドバイスや収集方法に関する助言を受けられる他、会社への請求や交渉を一任できます
    任意の交渉において解決が見込めず、労働審判・訴訟に発展した場合も、弁護士がいれば任せることができるので安心です。

    未払い残業代の請求は「未払い残業代が発生している事実はあるのか」や「未払い残業代がいくらなのか」を正確に判断することから始まります。
    まずは弁護士に相談してあなた自身の状況を詳しく説明し、アドバイスをもらうことをおすすめします。

4、まとめ

小売業界は、人手不足などから長時間労働を強いられるケースも少なくありません。
働き方改革に伴い、有給休暇の取得義務化や時間外労働に対する割増賃金の引き上げなどが段階的に整備されていますが、小規模の小売店などでは法令が遵守されないまま、労働環境が改善されていない可能性があります。
また、実態は「名ばかり管理職」であるにもかかわらず、残業代が支払われていないケースもあるでしょう。

「残業代の未払いを解決したい」とお考えなら、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスにお任せください。労働トラブルの解決実績を豊富にもつ弁護士が、未払い残業代の獲得を実現するために尽力します。

未払い残業代が発生しているのかわからない、未払い残業代が発生しているのは間違いないが正確な金額がわからないといった方も、ぜひお気軽にベリーベスト法律事務所 那覇オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています