雇用契約書がない! 労働条件を提示しない会社はブラック企業なのか?
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残業代の未払いトラブルを解決したい、自分の残業代はどうやって計算されているのかを確かめたい、というときにまず確認すべき書類のひとつが「雇用契約書」です。ところが、いざ確認しようと思い返してみても「雇用契約書をもらった記憶がない」という方も少なくありません。
「雇用契約書をもらっていない」などの労働に関する悩みや不明点は、沖縄労働局の那覇総合労働相談コーナーでも相談できます。自分自身がおかれた状況を確かめたいという方は、まずはこちらに相談しても良いでしょう。
会社に雇用されて働く際は、使用者と労働者の間で「労働契約」を結ぶことになります。契約ですから「契約書を交わしていない」となると会社のことを疑ってしまうのは当然です。
本コラムでは、雇用契約書がない場合の対処法を那覇オフィスの弁護士が解説します。
1、雇用契約書とはなにか?
「雇用契約書」という用語が、なにを指す書類なのかわからない、もらったことも見たこともないという方もいるでしょう。
まずは「雇用契約書」について解説します。
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(1)雇用契約書の意義
雇用契約書とは、労働条件について労使双方が合意した内容を証明する書類です。
通常は雇い入れに際して作成され、2部を用意して会社と労働者がそれぞれ署名・押印し、各自が1部ずつ保管します。
会社が一方的に発行したものではなく、双方が確認・合意した内容を証明するものです。後にトラブルとなったときには証拠として強い効力を発揮します。 -
(2)雇用契約書に記載される内容
雇用契約書は一般的に、次のような事項が記載されています。
- 契約期間
- 就業の場所
- 従事する業務の内容
- 就業時間・休憩時間
- 休日・休暇
- 賃金(基本給の金額・締め日と支払日・支払い方法・賞与の有無・退職金の有無)
これらの条件を会社と労働者の双方が確認・合意し、双方が記名または署名、押印することによって雇用契約書が作成されます。
2、雇用契約書を作成しない会社はブラック企業なのか?
「雇用契約書」というくらいですから、労働者が雇用されるに際しては雇用契約書を交わすのが当然だと感じるかも知れません。では、雇用契約書を交付しない会社は、違法な労働条件や賃金の不払いが疑われる、いわゆる「ブラック企業」なのでしょうか?
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(1)雇用契約書を作成する義務はない
日常生活のなかでは、さまざまな場面で契約書が登場します。
契約を結ぶ際には契約書を交わすのが当然で、契約書が存在しない契約は法的に無効になると認識している方も多いかも知れません。
ところが、労働契約を結ぶ際に「必ず雇用契約書を交付しないといけない」という決まりはありません。
労働契約法第4条第2項には「労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとする」と規定されていますが、雇用契約書の交付が使用者の義務とは規定されていないのです。
法律の規定がないので、雇用契約書を作成していないことをもって違法になることもありません。 -
(2)労働条件の明示がなければ違法
雇用契約書は必ず作成するべきと規定されているものではありません。
ただし、雇用契約書が存在せず、さらに「労働条件の明示がない」場合には違法です。
労働基準法第15条第1項は「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定めています。
労働条件の明示の役割を果たすものとして挙げられるのが「労働条件通知書」です。
通知書ですから、使用者と労働者の間で確認・合意するものではなく、使用者である会社が一方的に通知することで足ります。
労働契約書を作成していなくても、次に挙げる厚生労働省令(労働基準法施行規則)で定める事項について通知していれば問題はありません。- 労働契約の期間に関する事項
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
- 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
- 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
上記の労働条件について明示がない場合は労働基準法違反となり、使用者に30万円以下の罰金が科せられます。
なお、明示された労働条件と事実が相違する場合は、労働者から即時に契約を解除することが認められています。
3、雇用契約書がない会社は退職したほうが良い?
前述したように、雇用契約書は作成の義務を課せられたものではありません。
とはいえ、雇用契約書がないと労働条件に関するトラブルが発生したときに労働者の身を守るための証拠が存在しないという問題が発生する可能性があります。
では、雇用契約書がない会社は、退職したほうが良いのでしょうか?
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(1)雇用契約書の有無だけで判断するべきではない
前述したように労働基準法は使用者に「労働条件の明示」を義務付けています。
この義務は、必ずしも雇用契約書の交付を義務付けているものではなく、労働条件を労働条件通知書などによって明示している場合は違法とはなりません。
会社の規模が小さい場合や人手が足りていない会社であれば、雇用契約書の交付を省略している可能性があります。
「雇用契約書をもらっていないから違法だ」と判断するのではなく、「労働条件の明示があったか?」を重視するべきでしょう。
労働条件の明示義務を果たすものとしては、労働条件通知書のほか、常時10人以上の労働者を使用する会社で作成が義務付けられている「就業規則」の交付も考えられます(但し、2(2)に挙げた事項が漏れなく記載されていることが必要です)。
もし、就業規則と雇用契約書・労働条件通知書の内容が相違する場合は、労働者にとって有利となる内容が優先されるという点も覚えておくと良いでしょう。 -
(2)会社に雇用契約書の発行を求める
雇用契約書のほか、労働条件を明示する書面が存在しない場合は、会社に書面の発行を求めましょう。改めて雇用契約書を発行してくれる、雇用契約書に代わる書面を交付してくれるという対応があれば、真摯(しんし)な対応があったと評価できます。
4、雇用契約書や労働条件通知書がない場合に予想されるトラブル
労働条件や賃金などについて、会社との間にトラブルが発生しても、労働者から会社側に申し入れをするのはハードルが高いと感じる方も少なくないでしょう。このような場合に、雇用契約書や労働条件通知書がないと、次のようなトラブルが発生し、ハードルがより一層高くなってしまうことが予想されます。
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(1)賃金に関するトラブル
入社前に聞いていた賃金と実際に支給された賃金に大幅な隔たりがあったとしても、雇用契約書や労働条件通知書がなければ、実際に支給されるべき賃金を証明する証拠が存在しないことになってしまいます。
特に、求人情報で提示されていた賃金と実際の賃金が異なるというトラブルは非常に多いので要注意です。
求人誌やハローワークの求人票などには賃金が記載されていますが、これはあくまでも目安であって、正式な労働条件ではありません。人材を集めるために、求人情報には賃金を高めに記載しているというケースもあるので、面接時や入社時に必ず確認することが大切です。 -
(2)労働時間に関するトラブル
入社してみると、入社前に聞いていたよりも長時間の労働を強いられた、残業を余儀なくされたといったトラブルも目立ちます。
就業開始時間よりも早い時間の出社を求められる、休憩時間がないといったトラブルが発生した際には、雇用契約書や労働条件通知書によって労働条件を確認し、会社に労働条件違背を主張する必要があります。 -
(3)休日に関するトラブル
「土日の週休二日制と聞いていたが、実際には土曜日も出勤を強いられる」など、休日に関するトラブルも考えられます。
休日も労働条件の明示において必須となる項目です。雇用契約書や労働条件通知書をしっかりと確認して、万一のトラブルの際に会社に労働条件違背を主張できるように備えておくことが大切です。 -
(4)解雇をめぐるトラブル
「今月で契約を打ち切る」「明日から来なくていい」といったように突然の解雇を受けたケースなどでは、雇用期間や解雇の事由の定めを確認する必要があります。
雇用契約時にどのような約束があったのかの証明が必須なので、雇用契約書や労働条件通知書がないと不当解雇を訴えるのも難しくなるでしょう。 -
(5)未払い残業代をめぐるトラブル
すでに長時間の残業を強いられている、残業代の未払いが生じているなどの労働問題が発生している状況であれば、いわゆるブラック企業である可能性が高いでしょう。しかし、雇用契約書や労働条件通知書がなければ、本来支払いを受けるべき未払い残業代の金額を算定することが、困難になる可能性があります。
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(6)すでにトラブルが発生している場合
雇用契約書がなく、労働条件を明示する書面の交付も拒まれるような場合は、会社が労働者に正規の労働条件を知られたくない等の事情があるものと予想されます。
そのような会社を相手にして、自力でトラブルを解決しようとするのは無謀です。また、労働条件がはっきりとしていないからといって泣き寝入りする必要もありません。このような場合には、弁護士のサポートを受けるのが賢明です。
未払いとなっている賃金額の算出や会社との交渉は、個人では対応が難しい面があります。また、証拠の収集についてもどのような証拠が必要かについて、個人では判断が難しいでしょう。
弁護士であれば、未払い賃金額の算出や会社との交渉を任せることができます。また、証拠の収集についてのアドバイスも得られるでしょう。まずは労働問題の解決実績を豊富にもつ弁護士への相談をおすすめします。
5、まとめ
雇用契約書は、使用者と労働者が確認・合意した労働条件を証明する大切な書面です。
ただし、法律で作成が義務付けられているものではなく、労働条件通知書などによって代えられるものです。つまり、雇用契約書がないからといって必ずしもブラック企業だというわけではありません。
しかし、労働条件に関する詳細が明示されておらず、未払いの残業代が発生しているなど労働問題が発生している場合は、ブラック企業である可能性も否定できません。まずは弁護士に相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスでは、労働に関するトラブルの解決実績を豊富にもつ弁護士が、あなたの不安を解消し、トラブルの解決に向けて全力でサポートします。
労働トラブルに関する全般的な相談に対応しているほか、未払い残業代に関しては何度でも相談は無料です。
「雇用契約書がないから、うちの会社はブラック企業だ」と誰にも相談せずに退職してしまうのは得策ではありません。まずは状況を把握することが大切です。ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスまでご相談ください。
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