偽装請負にならないために|企業が知っておくべきことと対応策

2022年07月12日
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偽装請負にならないために|企業が知っておくべきことと対応策

沖縄県の労働力調査によると、2021年9月における沖縄県内の就業者数は73万人で、前年同月に比べて4000人の増加となりました。

近年、人員不足の問題を解消するために、「業務委託」や「請負」の形で労働力を確保しようとする事業者が増えてきています。しかし、業務委託や請負でやってきた人に対して、常駐先の会社が具体的な指示を与えることは、「偽装請負」として違法になるおそれがあるので注意が必要です。

本コラムでは、偽装請負の概要と違法性、偽装請負にあたるケースの具体例や企業のとるべき対策などについて、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスの弁護士が解説します。

1、偽装請負とは?

「偽装請負」とは、実態として「労働者派遣」や「労働者供給」であるにもかかわらず、「業務委託」や「請負」の名目で契約が締結されている状態を意味します。

  1. (1)「業務委託」「請負」に見せかけた「労働者派遣」「労働者供給」

    法律において、契約の種類は契約の名称だけで決まるものではありません。契約の実質的な内容を考慮したうえで判断されます。

    「業務委託」や「請負」において、委託者(注文者)と受託者(請負人)の間には、指揮命令関係は存在しません。
    したがって、請負人は注文者の具体的な指示を受けることなく、自分の裁量で仕事の進め方を決めることができます。

    たとえば、A社の従業員であるXが、客先常駐を内容とする業務委託契約に基づきB社に派遣されたとします。
    この場合、XはA社の指揮命令を受けることはあるものの、常駐先であるB社の指揮命令下に入ることはないのです。

    しかし、「業務委託」や「請負」という名目で契約が締結されていても、実際には、注文者が請負労働者に対して、極めて具体的な指示を与えている場合があります
    そして、注文者と請負人との間で実質的な指揮命令関係が発生している場合には、「業務委託」や「請負」ではなく、「労働者派遣」または「労働者供給」に当たると判断される可能性が出てくるのです。

    労働者派遣と労働者供給の詳細は、下記の通りです。

    労働者派遣
    派遣元に雇用された派遣労働者が、労働者派遣契約に基づき、派遣先の指揮命令下で働くこと。

    (例)
    • A社の従業員であるXが、A社・B社間の契約に基づき、B社の指揮命令下で働く場合
    労働者供給
    供給元に雇用以外の形で従属する労働者が、供給契約に基づき、供給先の指揮命令下で働くこと。または、労働者が供給元と供給先の両方と雇用関係を結んだうえで、供給契約に基づき、供給先で働くこと。

    (例)
    • A社の指揮命令下にあるXが、A社・B社間の契約に基づき、B社の指揮命令下で働く場合
    • A社・B社の両方の従業員であるXが、A社・B社間の契約に基づき、B社で働く場合


    このように、名目としては「業務委託」や「請負」であるものの、「労働者派遣」や「労働者供給」の実態がある状態は、いわゆる「偽装請負」と呼ばれます。

  2. (2)偽装請負は労働者派遣法や職業安定法に違反する

    労働者派遣事業を行う場合には、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります(労働者派遣法第5条第1項)。
    また、有料の労働者供給事業は一律に禁止されており、無料の労働者供給事業についても、厚生労働大臣の許可を受けた労働組合等にのみ認められています(職業安定法第44条、第45条)。

    偽装請負とは、表面的には「業務委託」や「請負」の名称を用いながら、労働者派遣事業や労働者供給事業を厚生労働大臣の許可なく営む行為です。
    したがって、偽装請負は、労働者派遣法や職業安定法に違反する行為とみなされます

    法律で偽装請負が禁止されているのは、労働基準法や労働契約法の規制を回避しながら、強力な指揮命令関係を前提とした労働力を安価に確保しようとする「事業者の労働者に対する搾取」を防ぐためです。

  3. (3)偽装請負には罰則が科される可能性も

    名目上は業務委託や請負であっても、その実態が「労働者派遣」や「労働者供給」に当たるとみなされた場合には、労働者派遣法や職業安定法に違反していると判断され、罰則が科されるおそれがあります。

    無許可で労働者派遣事業を営んだ場合、派遣元事業主に対して「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されます(労働者派遣法第59条第1号)。
    また、会社が労働者供給事業を営むことは一律禁止されています。これに違反した場合にも、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されるのです(職業安定法第64条第9号)。

    さらに、法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者が上記に違反した場合には、両罰規定により、法人にも「100万円以下の罰金」が科されます(労働者派遣法第62条、職業安定法第67条)。

    会社やその代表者・従業員などに刑事罰が科された場合、会社の評判にも深刻な影響が発生するおそれがあります。
    そのため、業務委託や請負が「偽装請負」と判断される事態は、会社側としても回避すべきでしょう。

2、偽装請負にあたるケースの例

業務委託や請負が「偽装請負」と判断されやすいのは、いわゆる「客先常駐」のケースです。

受託者(請負人)である会社は自社で雇用する従業員を、委託者(注文者)である常駐先に派遣することになります。
その際、本来は請負人に雇用されているはずの従業員が、常駐先の具体的な指揮命令を受けて仕事をする場合には、偽装請負と判断される可能性が高くなるため、注意が必要です。

特に、以下のいずれかに当てはまる場合には、従業員と常駐先の間に具体的な指揮命令関係があると認められて、偽装請負と判断されるリスクが高くなります。

  • 従業員に対して、常駐先の勤務規則が適用されている
  • 派遣された従業員が、常駐先の決めた勤務時間の間、常駐先のオフィスに滞在することを強制されている
  • 仕事の手順や時間配分について、派遣された従業員が常駐先から事細かに指示を受けている

3、偽装請負だと判断されないために、企業がとるべき対策

業務委託契約や請負契約により、自社が行う従業員の派遣が「偽装請負」であると判断されることを避けるためには、契約内容と現場の実態の両方について、十分にチェックすることが重要です。

  1. (1)偽装請負を疑われないような内容の契約書を締結する

    業務委託契約や請負契約を締結する際には、名実ともに業務委託・請負であると説明できるように、契約条項の内容を整備しなければなりません。

    契約の中に、常駐先(注文者)が、請負人の雇用している従業員への指揮命令権限が持っていることをうかがわせる条項が含まれている場合、偽装請負と判断されるリスクが高まります。
    前述の偽装請負と判断されやすい要素を参考にしながら、そのような要素が契約書の案文中に少しでも含まれていれば、契約交渉により極力排除するように努めましょう

  2. (2)実際の作業現場の状況を把握する

    契約の内容自体は業務委託や請負の体裁になっていても、実際の作業現場で、常駐先と請負人の従業員との間に指揮命令関係が発生している場合には、偽装請負と判断されてしまうリスクがあります。

    請負人として従業員を派遣する会社は、従業員から常駐先での作業の様子について報告を受けるなどして、作業現場の実態を把握することに努めましょう

    また、注文者として作業者を受け入れる会社(常駐先)は、偽装請負に関する法律上のルールを、現場で働く自社の従業員に対して、徹底的にインプットすることが大切です。
    そのうえで、現場の判断で偽装請負にあたる行為がなされることのないように、定期的なコンプライアンスチェックやリーガルチェックを行うことをおすすめします。

4、労務管理に関する疑問・問題点は弁護士に相談を

雇用・業務委託・請負などに基づく労務管理は、会社が抱える法律問題の中でも、もっともセンシティブな領域の一つです。

労働基準法などの労働法令により、労働者の権利は厚く保護されているため、会社は従業員に対して慎重な対応をしなければいけません。
その一方で、労働法令の適用を回避する目的で業務委託契約や請負契約を締結することは、本コラムで解説した「偽装請負」のルールに抵触する可能性があるのです。

このように、労務管理については、会社にとっての落とし穴が至るところに存在します。
法令に違反する形で労務管理を行うことは、労働基準監督署による行政指導・勧告や刑事罰、さらには世間からの厳しい批判を受けるおそれがあるので、くれぐれも注意しなければいけません。

労務管理に関するリスクを最小限に抑えるためには、顧問弁護士と契約をして、日常的に発生する疑問や問題点を相談できるようにしておくことをおすすめいたします
弁護士に相談すれば、契約と現場の実態の両面について、会社が適正な形で労務管理を行うためのアドバイスを受けることが可能です。

労務管理について疑問や不安がある会社経営者や担当者の方は、お早めに、弁護士にまでご相談ください。

5、まとめ

業務委託や請負の名目で契約を締結していても、請負人が雇用する従業員に対して、常駐先から具体的な指示が行われている場合には、「偽装請負」として違法となるおそれがあります。
偽装請負を避けるためには、契約内容から偽装請負の要素を排除したうえで、委託者(注文者)・受託者(請負人)の双方が、作業現場の実態把握に努めることが大切です。

ベリーベスト法律事務所では、偽装請負に関するポイントを含めて、企業の方からの労務管理に関するご相談を随時受け付けております
沖縄県内で労務管理にお悩みの企業経営者や担当者の方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスにまでご相談ください。

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