相手が一方的に別居したら慰謝料請求できる? 請求方法も併せて解説!
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平成30年11月、ある相撲部屋の親方が妻との離婚を発表し、大きくメディアで取り上げられました。報道によると、すでに1年ほど別居状態が続いていて、夫婦の会話もなくなっていると言います。
もし、夫婦のどちらかが一方的に家を出て別居状態となった場合、相手方に慰謝料を請求することはできるのでしょうか。また、慰謝料を請求するときの方法も併せて解説します。
1、夫婦には「同居義務」がある
男女が結婚すると、同居義務が生じます。まず、同居義務とはいったいどのようなものかについて、見ていきましょう。
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(1)「同居義務」とは夫婦が同じ屋根の下で暮らす義務
夫婦には、法律上「同居義務」があります。その根拠は、民法上の「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」という規定です。これには、夫婦は同じ屋根の下に住み、お互いに協力しながら結婚生活を送り、どちらかが病気やけがで動けなくなった時には助け合わなければならない、との意味が込められています。
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(2)別居しても正当な理由があれば同居義務違反にはならない
しかし、いわゆる「法律婚」をしていても、さまざまな理由で別々に暮らしている夫婦は日本中にたくさんいます。もちろん、それらの夫婦がすべて法律違反を犯しているわけではありません。お互いに納得した上での別居や、正当な理由に基づく別居は、同居義務違反にはならないのです。
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(3)離婚前に別居していても建物明渡請求はできない
「顔も見たくないから」と離婚手続きの前にすでに別居を始めていたとしても、自分名義の家から相手を追い出すことはできません。たとえば、夫が出ていって夫名義の家に妻子が暮らしている場合、正式に離婚が成立するまでは妻子に対して建物明渡請求をすることはできないのです。
2、別居後に慰謝料請求ができないケース
相手方が家を出ていったからと言って、出ていったこと自体を理由に慰謝料や損害賠償を請求することはあまりありません。ここでは、慰謝料請求ができないケースについて見ていきたいと思います。
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(1)単身赴任の必要が生じた場合
配偶者のどちらかが遠方に転勤になったとき、家族としては帯同してついていくことが理想的ではあります。しかし、子どもが「転校したくない」と言っている、介護が必要な家族が近所に住んでいる、自分も働いているなどの場合は、家族そろって転居するのが難しいこともあるでしょう。そのため、転勤になった配偶者のみ、単身赴任をするケースも珍しくありません。
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(2)配偶者のDVやモラハラから逃れた場合
家を出たほうが、配偶者から日常的にDVやモラルハラスメントを受けていた場合は、一方的に別居されたと訴えても慰謝料は請求できません。同居を強いれば虐待などの恐れがあるときに相手に同居を強要することは、権利の濫用になると考えられているためです。
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(3)すでに夫婦関係が破綻している場合
顔を合わせるたびに喧嘩になる、お互いの顔も見たくないほど夫婦関係が冷え切っているなどのように、すでに婚姻関係が破綻している場合も、別居されたからといって慰謝料を請求することはできません。
3、別居後に慰謝料請求ができるケース
逆に、別居後に慰謝料が請求できるケースを考えてみましょう。この場合、別居そのものを理由とするのではなく、別居に至った経緯を理由として請求することになります。
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(1)別居後に生活費を渡さなかった場合
夫婦には婚姻費用分担する義務もあります。実務上では単純に収入を足して2で割るのではなく、収入の多いほうが少ない方に生活費渡すことになります。しかし、婚姻関係が続いているにもかかわらず別居中に相手に生活費を渡さない場合は悪意の遺棄とみなされ、慰謝料を請求できる可能性が高まります。
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(2)愛人をつくっていた場合
法律上、夫婦には配偶者以外の異性と性交渉を持たないとする貞操義務も課されています。ところが、配偶者以外の異性と不倫・浮気をして愛人をつくって家を出ていった場合は、相手方の不貞行為を理由に慰謝料を請求することができます。
4、出て行った相手と一緒に暮らしたい場合は同居調停を
配偶者が出ていってしばらく経つと、「夫(妻)が出ていってしまって寂しい」「夫(妻)ともう一度やり直したい」という気持ちが芽生えることもあるでしょう。その場合、少しでも夫婦関係を修復できる可能性があれば、家庭裁判所に同居調停を申し立てることができます。
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(1)同居調停(夫婦関係調整調停)とは
夫婦関係調整調停とは、夫婦関係が円満でなくなった時に、夫婦仲を回復させるための話し合いをする手続きのことです。中でも、夫婦の一方が家を出ていってしまったときに、裁判所を通じて再度同居を求めるために行われる手続きを、同居調停と呼びます。
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(2)同居調停の申立方法
離婚調停と同様に、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、もしくは当事者双方で話し合って決めた家庭裁判所に申し立てます。申し立てには以下のものが必要です。
- 収入印紙(1200円分)
- 書類を郵送するための切手
- 申立書とその写し1通
- 夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 夫婦の住民票(世帯主・続柄・本籍地・筆頭者の省略のないもの)
調停では、調停委員の仲介のもとで必要に応じて助言を得ながら、当事者同士が話し合いをします。それでも相手方が同居を拒否する場合は、調停不成立となり審判に移行します。
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(3)同居は強制できるのか?
正当な理由なく一方的に別居した場合は、同居を命じる審判が下されることがあります。しかし、夫婦を強制的に同居させても関係が元に戻るとは考えられないため、裁判所は同居を命じたとしてもそれに反したからといって強制執行ができないことになっています。過去の事例でも、「いかなる方法によってもその(同居義務の)履行を強制することは許されない」とされています。(札幌家裁平成10年11月18日審判)
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(4)同居調停も審判も不成立に終わったら
同居調停や審判が不成立に終わったら、別居に至った理由に基づいて慰謝料を請求することができます。離婚せずにそのまま別居を続けるのであれば、別居期間中の生活費(婚姻費用)も請求可能です。
5、別居中の婚姻費用分担義務について
婚姻中の夫婦には、婚姻費用分担義務があります。ここでは、婚姻費用分担義務とはどういうものか、また別居している場合の婚姻費用はどうなるのかについて解説します。
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(1)婚姻費用分担義務とは
婚姻中の夫婦には、婚姻生活にかかる費用をお互いに負担する「婚姻費用分担義務」があります。ここでいう婚姻費用とは、食費や光熱費だけでなく、家賃や医療費、交際費、子どもの教育費なども含まれます。別居中でも、夫婦はこれらの費用を支払う義務があるのです。実際は、収入の多いほう(主に夫)が支払うことが多いと言えるでしょう。
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(2)有責配偶者の婚姻費用分担への影響は?
相手方が家を出ていった理由が不倫や浮気だった場合、その相手方は「有責配偶者」となります。夫婦のどちらか一方が有責配偶者に該当する場合、婚姻費用は以下のように考えます。
<有責配偶者が婚姻費用をもらう側の場合>
たとえば、無職の妻が愛人をつくって家を出て、婚姻費用を請求したケースを考えてみましょう。この場合、妻が婚姻費用を夫に請求したとしても、自ら夫婦の相互扶助協力義務に違反しているにも関わらず相手方に扶助協力義務を履行するように請求していることになるため、信義則に反するとして妻の受け取れる婚姻費用が減額またはゼロにされる可能性があります。ただし、子どもを連れて別居した場合、子どもの養育費相当分は許されると考えられています。
<有責配偶者が婚姻費用を支払う側の場合>
上記の例で愛人をつくって出ていったのが夫だった場合は、「婚姻費用を増額すべき」という考え方はあまりされていません。有責配偶者はペナルティとして慰謝料を相手方に支払っているため、婚姻費用の負担を重くすることは有責配偶者にとって負担と考えられているからです。ただし、有責配偶者が不倫相手(浮気相手)やその子どもを扶養しているからといって、婚姻費用が減額されたりゼロになったりすることはない点には注意が必要です。
6、別居後に慰謝料請求する場合に必要な証拠は?
別居した相手に慰謝料を請求する場合は、裁判になったときに備えて証拠資料をそろえておきましょう。必要となる資料は別居に至った理由によって異なりますが、以下のような資料が必要となります。
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(1)生活費の振込が途絶えたことを示す預貯金通帳の記録
別居後、生活費を払ってもらえなくなった場合は、生活費の振り込みが途絶えたことを示す必要があります。証拠として、生活費の振込に使用している預貯金通帳の写しを準備しておきましょう。
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(2)別居の経緯や別居がいつから始まったかわかる資料
離婚を視野に入れる場合、裁判所では別居に至った経緯や別居期間についても考慮されます。そのため、別居に至った経緯を説明する文書や、家を出ていった相手方が不動産会社と交わした賃貸契約書の写しなどを用意しましょう。
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(3)不倫・浮気をしている証拠
相手方が不倫相手と一緒に暮らすために家を出ていった場合は、不倫や浮気をしている証拠を提出することが必要です。相手方が不倫相手とラブホテルに出入りする様子を撮影した動画や写真、ラブホテルの領収書やクレジットカードの利用明細があれば有力な証拠となります。
7、別居している相手に慰謝料を請求する手順・方法
別居した相手に慰謝料を請求する手順や方法は以下の通りです。
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(1)内容証明郵便で請求
まず、証拠資料ともに慰謝料の請求書を作成し、内容証明郵便で相手方に送付します。請求書には、請求する理由や請求金額、支払方法・期日などを記しておきましょう。その後、相手方と話し合い、協議がまとまれば合意書を作成します。作成した合意書は、公証役場に持参して強制執行認諾文言付公正証書にしておくと、相手方が慰謝料を支払わなかった際に強制執行をすることが可能です。
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(2)調停を申し立てる
協議が調わない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てましょう。調停委員の仲介のもとで、適宜アドバイスや調停案の提案を受けながら、当事者双方が引き続き話し合いを行います。調停がまとまれば調停調書が作成され、その後調停委員や当事者など関係者全員で内容を確認します。相手方が調停調書の内容通りに慰謝料を支払わない場合は、調停調書を債務名義として強制執行が可能です。調停が不成立となったら、自動的に審判に移行します。
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(3)裁判で争う
調停も審判も不成立に終わった場合は、最終的に裁判で争います。裁判では、提出した資料をもとに法的根拠に基づいた主張を展開することが必要です。裁判はたいていの場合解決までに長い期間を要するため、裁判の途中で裁判官から和解勧告を受け、和解することも珍しくありません。
8、まとめ
夫婦間の同居の問題はお金の問題とは異なり、裁判所などの第三者が強制的にどうにかできるものではありません。一度別居して気持ちまで離れてしまうと、夫婦関係を修復して再び一緒に暮らすことは難しいでしょう。
ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスでは、配偶者が一方的に家を出ていった場合の相談にも応じております。同居を求めることは難しいかもしれませんが、弁護士であれば婚姻費用や慰謝料という代替手段を使ってより良い方向に問題を解決する方法も提案することが可能です。「配偶者が別居してしまって今後の生活の見通しが立たない」などとお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスの弁護士までご相談ください。
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