葬儀費用(葬儀代)を遺産から支払うと相続放棄はできなくなる?
- 相続放棄・限定承認
- 葬儀費用
- 相続放棄
親族が亡くなったときに避けられないのは、葬儀に関する問題です。葬儀は、地域によってさまざまな風習がありますが、沖縄県も例外ではなく葬儀やお墓に独特のしきたりがあるため、それなりの費用がかかるともいわれています。
故人(被相続人)が借金を背負っていたようなケースでは、相続放棄を見据えて対応する必要があります。
しかし相続人が、相続放棄をする前に、故人の相続財産を一部でも処分してしまったときは、相続人が相続を単純承認(民法 第921条)したものとして、相続放棄が認めらなくなります。
それでは、相続人が葬儀費用を、故人の相続財産から支払ってしまった場合、相続人が相続を単純承認(民法 第921条)したとして、相続放棄ができなくなるのでしょうか。
本コラムでは、遺産から葬儀費用を支出すると相続放棄ができなくなるのかについて、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスの弁護士が解説します。
1、知っておきたい相続放棄の基礎知識
まず相続放棄に関する基礎知識を確認していきましょう。
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(1)相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人(故人)の相続財産すべてを放棄することをいいます。
相続財産には、現金や預貯金、不動産などのプラスの財産だけでなく借金などのマイナスの債務も含まれます。そのためプラスの財産よりも借金の方が多いようなときには、そのまま相続すれば、相続人が借金の返済義務を負わなければなりません。相続放棄をすれば、プラスの財産はもちろんマイナスの財産を相続する必要もなくなります。 -
(2)相続放棄の手続き
相続放棄できる期間は、基本的に「相続開始を知ったときから3か月以内」と限定されています。例外として、3か月以内に裁判所に期間伸長の申し出をして認められたときには、期間を延長できます。
相続放棄の手続きは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出する方法で行うことができます。裁判所において、本人に相続放棄の意思があると認められると、相続を放棄することができます。
2、相続放棄ができなくなるケース
民法では、法定単純承認事由に該当すれば「単純承認」したものとみなすことを定めています(民法 第921条)。単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続することを意味し、単純承認したとみなされた場合、相続放棄はできなくなります。
では、民法で規定する法定単純承認事由には、どのようなことが該当するのでしょうか。
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(1)相続人が相続財産を処分したとき
相続人が相続財産の不動産を売却したり預金から支出したりすれば、単純承認したものとみなされます。つまり、相続放棄前に相続財産を使ってしまうと単純承認したとみなされるため、相続放棄は認められなくなります。
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(2)相続人が期間内に相続放棄や限定承認をしなかったとき
相続放棄や限定承認(プラスの財産の範囲内で債務を負担する方法)の手続き期間をすぎても家庭裁判所への申述が行われないときには、単純承認したものとみなされます。
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(3)相続財産を隠匿、消費、悪意で財産目録に記載しなかったとき
限定承認または相続放棄した後でも、相続財産の全部または一部を隠匿したり私的に消費したり、わざと相続財産目録に記載しなかったときには、単純承認したものとみなされます。ただし相続放棄によって繰り上がった相続人が相続を承認した後であれば、単純承認したものとはみなされないとされています。
3、相続財産から「葬儀費用」を出しても相続放棄できる!
相続人が葬儀費用を故人の相続財産から出してしまうと、法定単純承認事由の(1)に該当し、相続放棄はできないようにも思えます。
しかし、葬儀費用については例外的に、「身分相応な葬儀の費用」の範囲内であれば、相続財産から支払いをしても相続放棄は認められるのです。
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(1)「葬儀費用」の支出は基本的に相続放棄に影響しない
相続人が故人の葬儀を営むことは、道徳的にも当然のことであること等の理由から、相続人が被相続人の預金などから葬儀費用を支出しても、それをもって相続の単純承認に当たるとは考えず、相続放棄をすることが認められます。
これは、葬儀は社会的に必要不可欠な儀式である反面、葬儀のために急な支出を迫られても対応できる相続人ばかりではないという事実を考慮したものと考えられます。 -
(2)「不相応に過大な葬儀費用」は相続放棄に影響する可能性も
ただし、注意点があります。あくまでも認められるのは「故人の身分に応じて行った葬式の費用」だけであり、不相当に過大な葬儀を相続財産から支出して行ったのであれば、「相続財産を処分した」として単純承認とみなされる可能性があります。
4、葬儀に関係する費用などで注意するべき点
葬儀以外にもかかる費用としては、香典返し、墓石や仏壇の購入などが考えられます。では、このような費用の扱いは、どうなるのでしょうか。
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(1)墓石の購入や香典返しは要注意
墓石や仏壇については、相続財産から支出したものの単純承認したとはみなされず、相続放棄が認められた裁判例があります(大阪高裁 平成14年7月3日)。
しかし、不相応に高額なものを購入するなどすれば、単純承認したと認められる可能性もあり、事例に応じて相続放棄の認否が判断されると考えられます。
また、忌引明けなどに送る香典返しを相続財産から支出することは、一般的に妥当とはいえないため、単純承認したとみなされる可能性が高いといえます。 -
(2)形見分けの場合
葬儀で親族が集まると、形見分けが行われることがあります。形見分けは被相続人の所有物を譲り受けることになるので、相続放棄できなくなってしまうのではないかという心配をされるかもしれません。
この点については、経済的な価値がないもの、たとえば故人の衣服や身の回りのものといった程度であれば、相続放棄に影響しない可能性が高いでしょう。他方、高級な腕時計や宝石などの財産については形見分けを行うことは、相続放棄に影響することも考えられます。
5、まとめ
社会的にみて相応な程度の葬儀費用であれば、遺産から支出しても、相続放棄に影響しないと考えられます。
しかし、墓石の購入など葬儀に関連して発生する費用については、遺産から支出すると相続放棄できなくなるリスクもあるので注意が必要です。
被相続人に多額の借金があったようなケースでは、相続人に相続放棄が認められるかどうかは切実な問題です。そのため、遺産の使用や形見分けで判断に迷うような場合は、弁護士に相談しアドバイスを得ることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスでは、相続にまつわるトラブルのご相談を広く受け付けております。適切に判断しなければ、相続放棄ができずに大きな不利益を被る可能性があります。那覇オフィスの弁護士が、ご事情をしっかりと伺った上で適切な助言・サポートを行いますので、まずはご相談ください。
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