寄与分が認められるケース、寄与分を主張するために有効な証拠とは?
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沖縄県には、トートーメー(位牌)を継ぐ人間(主に長男)が遺産をすべて相続する、という慣習が根強く残っています。しかし、最近では権利意識の高まりから、きょうだいも相続分を主張し、争いに発展するケースも少なくありません。それに加え、寄与分を主張する者もあらわれると、さらに問題が複雑化してしまうでしょう。
本記事では、寄与分がどのような場合に認められるのか、また寄与分がある場合の相続分の算定方法について解説します。
1、寄与分とは
「被相続人が亡くなるまで献身的に介護をした」「事業をずっと陰で支えていた」などの場合は、寄与分を主張できることがあります。ここでは、寄与分とは何か、また寄与分を受け取ることのできる条件などについて解説します。
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(1)特別な寄与をした者が相続財産を多くもらえる制度
寄与分とは、被相続人の財産形成・維持に対して特別な寄与をした者が、他の法定相続人より相続財産を多くもらえる制度です。たとえば、被相続人である父親が晩年に要介護状態になり、長女が父親と同居して毎日つきっきりで介護していた場合、遺産をほかのきょうだいと同じ取り分にすると不公平が生じます。そこで、その不公平を解消するために設けられたのが、寄与分という制度なのです。
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(2)寄与分が認められる者
寄与分が認められるのは、共同相続人に限定されています。また、孫が被相続人に寄与する行為を行った後に、共同相続人である子どもが先に亡くなって孫が代襲相続をすることになった場合も、寄与分が認められることになります。逆に、共同相続人にはあたらない婿や嫁がどれだけ被相続人に尽くしていたとしても、寄与分は認められません。
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(3)寄与分の条件①特別な寄与
寄与分が認められる条件のひとつに、「特別な寄与」があります。特別な寄与とは以下の条件にすべて該当することが重要です。
- ほぼ無償で行ったこと
- 長期にわたって従事してきたこと(目安は1年以上)
- 片手間に行っていたのではなく、専従していたこと
- 被相続人と近しい身分であったこと(妻や子、きょうだいなど)
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(4)寄与分の条件②被相続人の財産の維持・増加
寄与分が認められるには、被相続人の財産を増加したり、最低でも維持していたりしたことも条件のひとつになります。たとえば、被相続人が所有するマンションで家賃の未払いがあった場合に支払いや立ち退きを請求する交渉を代理で行ったりしていた場合などがこれに該当します。ただし、相続人が財産を増加させた後、被相続人が運用に失敗して財産を減少させてしまった場合は、寄与分が認められないことに注意が必要です。
2、寄与分が認められるケース
寄与分が認められるケースについて見ていきましょう。具体的に寄与分が認められるのは以下の5つの場合です。
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(1)家業に従事していたケース
たとえば被相続人が農業を営んでおり、妻が年中被相続人とともに農作業を行っていた場合がこれにあたります。家業に従事していたことを理由に寄与分を請求する場合は、長期にわたってほぼ無償もしくは小遣い程度の給料で事業を手伝っていたことが条件になります。
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(2)金銭や資産を提供していたケース
たとえば、被相続人である父親が晩年に母親と暮らすための「終の棲家」を購入する際に、長男が購入資金を出した場合が、このケースに該当します。このケースで寄与分を認めてもらうには、出資の効果が相続開始時まで残っていること、つまり被相続人が亡くなるまでその家に住み続けていることが条件となります。
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(3)療養看護していたケース
長男が仕事を辞めて、長期にわたって親の介護に専念していた場合がこのケースに当てはまると言えるでしょう。相続人が自ら介護にあたる場合はもちろん、ヘルパーに来てもらって親の介護してもらうときの費用を相続人が負担していた場合もこれにあたります。
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(4)被相続人を扶養していたケース
足腰が弱って家事などをすることが困難になってしまったなどの理由から、被相続人を自宅に引き取って、身の回りの世話をしていた場合がこれにあたります。自宅に引き取らないまでも、被相続人を扶養家族に入れて生計を一にしていた場合もこれに該当します。
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(5)被相続人の財産を管理していたケース
たとえば被相続人が賃貸用の建物を所有していた場合、業者を入れて建物のメインテナンスを行ったり、空き家になれば賃借人を募集したりするなど、被相続人の財産を相続人が管理していた場合がこのケースに当てはまります。管理を無償で、かつ長期間継続して行っていることが考慮されます。
3、寄与分があるときの相続分の計算方法
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(1)寄与分の計算方法
寄与分が発生する場合は、各相続人の相続分を計算する前に、寄与分を算定します。 寄与行為に対する寄与料の算定方法の例は以下の通りです。
<家業に従事していたケース>
- 寄与者の受けるべき相続開始時の年間給与額×(1-生活費控除割合)×寄与年数
<金銭や資産を提供していたケース>
- 不動産を贈与した場合:相続開始時の不動産額×裁量的割合
- 金銭を贈与した場合:贈与当時の金額×貨幣価値変動率×裁量的割合
<療養看護していたケース>
- 自分自身が療養看護していた場合:付添人の日当額×療養看護日数×裁量的割合
- 療養看護にかかる費用を負担していた場合:負担費用額
<被相続人を扶養していたケース>
- 引き取って扶養していた場合:(現実に負担した額又は生活保護基準による額) ×期間× (1-寄与相続人の法定相続分割合)
- 扶養料を負担していた場合:負担扶養料×期間 × (1―寄与相続人の法定相続分割合)
<被相続人の財産を管理していたケース>
- 不動産の賃貸管理や売買契約締結を行った場合:(第三者に委任した場合の報酬額) × (裁量的割合)
- 火災保険料や固定資産税などの税金を負担していた場合:現実に負担した金額
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(2)相続分の計算方法
寄与料を算出したら、次は各相続人が受け取れる相続分について計算します。まずは相続財産全体の価額を算出し、そこから寄与分を差し引いて相続割合を乗じたものが各相続人の受け取れる法定相続分になります。
たとえば、相続財産が合計5000万円、相続人が長男・次男・長女の3人で、長女の寄与分が200万円と認められた場合、
みなし相続財産の金額は
- 5000(万円)- 200(万円)= 4800(万円)
長男と次男の相続分は
- 4800(万円)×1/3 = 1600(万円)
長女の法定相続分は寄与分と合わせて
- 1600(万円)+200(万円)= 1800(万円)
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(3)寄与分が遺留分を侵害した場合はどうなる?
寄与分が発生したときに問題となりえるのが、他の相続人の遺留分を侵害する可能性です。遺留分とは、各相続人に最低限の相続財産を保証する制度のことですが、寄与分を主張する相続人に対して遺留分減殺請求をすることができるのでしょうか。
この問題について、東京高裁は「寄与分は遺留分によって当然に制限されるものではない。ただし、寄与分を定める際には相続人の遺留分を芯がすることになるかどうか考慮すべき」という決定を下しています。(東京高裁平成3年12月24日決定)つまり、遺留分を侵害するほどの寄与分は認められる余地はあるものの、実際に寄与分を決める際には遺留分について一定の考慮は必要となるのです。
4、寄与分を主張する際の手順と証拠
次に、寄与分を主張する際の手順について解説します。まず共同相続人に対して寄与分を主張しますが、実際には相続人同士の話し合いの場で認めてもらえることは難しいため、たいていは裁判所の決定を待つことになります。
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(1)寄与していたことを示す証拠とは
共同相続人に対して寄与分を主張する際には、被相続人の財産形成や維持に寄与していたことを示す証拠が必要です。具体的には以下のようなものが証拠になります。
- 家業に従事していた場合は、被相続人の確定申告書や税務書類
- 療養看護をした場合は、診断書やカルテ、ヘルパーの利用明細、薬代やタクシー代などのレシート、会社を休んだことを示すタイムカード、減給した場合は給与明細など
- 財産を贈与した場合は、領収書や通帳、契約書など
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(2)共同相続人で協議
証拠資料を準備したら、共同相続人と遺産分割協議を行うときに寄与分を受け取るべき旨を主張します。しかし、どれほどの寄与があったかを客観的に証明することは難しく、話し合いだけではなかなか寄与分を認めてもらえないことがほとんどです。
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(3)寄与分を求める調停を申し立てる
協議が調わない場合は、家庭裁判所に寄与分を定める処分調停を申し立てます。申立書類とともに寄与したことを示す証拠もそろえて裁判所に提出しましょう。調停委員会の仲介のもとで話し合いを続行しても、調停不成立となった場合には審判に移行します。それと同時に、遺産分割審判も申し立てなければなりません。遺産分割審判がなければ、寄与分を定める審判が却下されてしまうからです。
5、民法改正で「特別寄与請求権」が創設
今まで、相続人ではない親戚縁者が被相続人のために献身的に介護をしたり労務を提供した場合には寄与分が認められず、遺言による「遺贈」という形でしか遺産を分け与えることができませんでした。しかし、平成30年の民法改正により大きく制度が変わりました。
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(1)相続人以外にも寄与分が認められた
改正民法で、相続人以外にも寄与分が認められる「特別寄与請求権」の制度が創設されました。この制度を利用すれば、たとえば被相続人の介護を一手に引き受けてきた長男の嫁は相続人の立場にはないものの、特別に被相続人の財産形成や維持に寄与したとして寄与分の主張ができるようになるのです。
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(2)特別寄与者になれる者
しかし、被相続人の財産形成・維持に寄与したからと言って、だれでも特別寄与者になれるわけではありません。特別寄与者になれるのは、被相続人の相続人でない親族です。ここでいう「親族」とは、配偶者・6親等以内の血族・3親等以内の姻族のことを指します。そのため、相続人である長男の嫁や長女の婿といった立場の方でも、被相続人に何らかの特別な貢献をしていれば、特別寄与者として寄与分を主張できる可能性が生まれたことになります。
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(3)特別寄与料の決め方
特別寄与料を受け取るには、まず共同相続人に対して請求することが必要です。請求自体が認められた場合、具体的な金額は遺産分割協議の中で話し合いが行われます。通常の寄与分と同じように、協議がまとまらなければ家庭裁判所に申し立てることになることが予想されます。
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(4)特別寄与料には時効がある
特別寄与料の請求には時効があります。請求できる期限は、相続開始および相続人を知った日から6ヶ月または相続開始のときから1年以内となっています。時効が成立するまで非常に短い期間となっていますので、特別寄与料の請求を検討される際は注意しましょう。
6、まとめ
寄与分の算定方法はケースによって異なり、具体的な金額をいくらにすべきかの判断も非常に難しいところです。さらに、共同相続人全員を納得させられるだけの主張を展開することも容易ではありません。
ベリーベスト法律事務所・那覇オフィスでは、遺産相続に関するご相談を承っております。初回の法律相談は60分間無料です。「献身的に親の介護をしてきたので、寄与分を主張したい」とお考えの場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
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