婿養子と婿入りの違いとは?離婚するときにどんな手続きが必要になる?

2019年09月12日
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婿養子と婿入りの違いとは?離婚するときにどんな手続きが必要になる?

ある有名女性タレントが、2013年に結婚した当時、夫が婿養子になっていたことを最近になりテレビで公表しました。このように、夫が婿養子として妻の家に入ることは、数は少ないものの、決して珍しくはありません。たとえば、妻の父親が会社経営をしていて後継者として適任な人材がいない場合、後継者として婿養子を迎えることもあります。

もし、婿養子に入った夫が様々な事情で妻と離婚したいと考えた場合は、どのような手続きが必要になるのでしょうか。婿養子と婿入りの違いとともに解説します。

1、「婿養子」と「婿入り」の違いとは

夫が妻の家に婿養子として入るケースはあまりありませんが、よく似た概念に「婿入り」があります。「婿養子」と単なる「婿入り」はどう違うのでしょうか。まずはその違いについて解説します。

  1. (1)法律上の「婿養子」とは

    法律上の婿養子とは、妻になる女性と結婚する際に姓を妻の姓に変え、さらに妻の両親との間に養子縁組をする夫のことを指します。養子縁組とは、本来親子関係にない者同士を法律上の親子関係にするものです。したがって、婿養子になることは、妻の両親の養子になることを意味します。そうなると、婿養子は自分の両親と妻の両親の両方の相続人になることができ、それぞれの財産を相続することが可能になります。

  2. (2)単に妻の両親と同居する場合は婿養子にならない

    ただし、婿養子とは単に妻の両親と同居しているだけの夫のことではありません。夫が妻の両親と同居することで、妻の両親からすれば娘のところに婿養子が来てくれたように見えますが、これは単に婿入りをしただけであって、婿養子になったとは言えません。婿である夫が妻の両親と養子縁組をして初めて、法律上の婿養子になるのです。

  3. (3)妻の姓を名乗るだけの場合も婿養子にならない

    また、夫が単に妻の姓を名乗るようになるだけの場合も、婿養子とはなりません。婚姻届を提出する際には、夫と妻のどちらの姓を名乗るかを決めなければなりませんが、夫が妻の姓に改姓しても、法律上の「婿養子」にはならないのです。

2、婿養子は「離縁」と「離婚」の手続きが必要

婿養子が妻と離婚する場合は、妻との婚姻関係を解消するとともに、妻の両親との養子縁組も解消しなければなりません。そのため、一般的な離婚よりも少し複雑な手続きを踏むことになります。婿養子が妻と離婚する場合は、どのような手続きを踏めばよいのでしょうか。

  1. (1)先に離縁届を提出する

    婿養子が妻と離婚する場合、離婚届を役所に提出する前に、妻の両親との養子縁組を解消するための「離縁」と呼ばれる手続きが必要になります。離縁を行う際は、役所に養子離縁届を提出します。離婚届を出すと同時に、妻の両親との養子縁組も自然に解消されるわけではありません。

    離縁の手続きを離婚より先にしておかなければ、妻とは離婚が成立したのに妻の両親とは養子縁組の関係が続いたままになり、養親の扶養義務や相続の権利が残ったままになるので、注意しましょう。もし、離縁するより先に養親が亡くなっている場合でも、死後離縁の手続きが必要です。

  2. (2)離縁の協議ができない場合は離縁調停へ

    離縁する場合は、あらかじめ妻の両親と婿養子とで協議を行います。しかし、妻の両親が反対するなど協議が難航する場合は、離婚と同様に調停や裁判に移行することがあります。離縁調停や離縁裁判を申し立てる裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所もしくは当事者の合意により定められた家庭裁判所です。

    離縁調停が成立すれば、調停調書が作成されますので、その謄本を請求します。この調停謄本は養子離縁届を提出する際になりますので覚えておきましょう。用紙離縁届は、調停成立後10日以内に提出します。

  3. (3)離縁調停が調わない場合は離縁裁判へ

    調停が調わず離縁裁判になった場合は、離縁する理由が民法上のいずれかの事由に当てはまらなければ離縁が認められないため注意が必要です。

    • ①夫または妻の両親から悪意で遺棄されたとき
    • ②夫または妻の両親の生死が3年以上明らかでないとき
    • ③その他縁組を継続しがたい重要な事由にあるとき


    離縁を認める確定判決が出ると、判決書の謄本と判決が確定したことを示す確定証明書が養親・養子のもとに送付されます。この2つの書類は、確定判決後10日以内に養子離縁届とともに提出しましょう。

  4. (4)離婚協議を行う

    養子離縁届を役所に提出して離縁が成立した後は、通常の離婚手続きに入ります。離婚の場合も、離婚届を書いて役所に提出し、受理されれば離婚が成立します。ただし、離婚届は様式が変わることもあるため、提出の際は最新版かどうかを確認してから提出するようにしましょう。

  5. (5)離婚協議が調わない場合は離婚調停へ

    離婚手続きにあたり、まず夫婦2人で離婚協議を行います。離婚条件などが折り合わなければ、離婚調停をします。申し立て先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所です。離婚調停が成立したら離縁調停と同様に調停証書が作成されますので、その謄本を請求しましょう。謄本は離婚届とともに、調停から10日以内に役所へ提出します。

  6. (6)離婚調停も整わない場合は離婚裁判へ

    調停も整わなければ裁判になります。裁判になった場合は、離婚原因が民法上定められた5つの離婚事由のいずれかに当てはまっていることが必要です。

    • ①配偶者が不貞行為をしたとき
    • ②配偶者から悪意で遺棄されたとき
    • ③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
    • ④配偶者の強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
    • ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき


    裁判で離婚を認める判決が出ると、判決書が作成されます。離婚届の提出の際には、判決書の謄本と判決が確定したことを示す確定証明書が必要です。これらの書類は、確定判決後10日以内に役所へ提出します。

  7. (7)離婚後、婿養子の姓はどうなる?

    婿養子の方が離婚にあたって気になるのが、離婚後に自分の姓がどうなるのかということではないでしょうか。離縁と離婚の手続きを終えると、妻の家の婿養子ではなくなるので、原則として旧姓に戻ります。ただし、何らかの理由で姓を変えたくない場合は、養子縁組後7年以上経過している場合に限り、離縁後3ヶ月から以内に「「離縁の際に称していた氏を称する届」を提出すれば、引き続き妻の姓を名乗ることが可能です。

3、婿養子と妻の両親との間で財産分与や慰謝料は発生する?

一般的に、離婚する際は夫から妻に財産分与を行ったり、夫婦のどちらかに不貞行為などの落ち度があった場合は慰謝料が発生したりします。では、養子縁組を解消するときは、婿養子と妻の両親との間で財産分与や慰謝料は発生するのでしょうか。

  1. (1)妻の両親との間で財産分与はしなくてよい

    法律上、婿養子と妻の両親との間で財産分与を行う義務はありません。そのため、基本的に婿養子と妻の両親との間で金銭などのやり取りが発生することはないでしょう。ただし、場合によっては、お互いに気持ちよく離縁するために金銭などの授受を行うケースもあるかもしれません。

  2. (2)慰謝料が請求できることはある

    たとえば妻の両親から婿養子へ日常的に暴言を吐いたり嫌がらせをしたりしていたことが原因で妻と離婚する場合は、妻の両親に対して慰謝料が請求できることはあります。慰謝料の相場については、ケースごとに異なりますので、詳しくは離婚問題の経験豊富な弁護士に相談するとよいでしょう。

  3. (3)慰謝料請求には証拠が必要

    婿養子が妻の両親へ慰謝料を請求する場合は、夫婦の片方が配偶者に請求する場合と同様に、慰謝料請求の根拠となる証拠が必要です。ICレコーダーやスマートフォンでこっそり録音・録画した音声や動画、病院のカルテなどが有力な証拠となりうるので、請求の前にはこれらの資料を準備しておきましょう。

4、婿養子と妻の間に子どもがいる場合

婿養子と妻との間に子ども(未成熟子)がいることも珍しくありません。必要な手続きが発生するかどうかは、子どもの戸籍や姓をどうするかによって異なります。

  1. (1)親権者を決める

    まずは一般的な離婚と同様に、親権者を決めることが必要です。親権者が決まっていなければ、離婚届を提出しても受理されないからです。夫婦双方で話し合い、経済事情や生活・教育環境、子どもの年齢や発育状況、親の年齢や健康状態などを総合的に考慮に入れて、親権者を決定します。

  2. (2)離婚しても子どもの戸籍は変わらない

    婿養子が妻と離婚すれば、婿養子の戸籍は結婚前の戸籍に戻ります。しかし、子どもの戸籍は夫婦どちらが親権者となっても変化がなく、妻を筆頭とする戸籍に入ったままとなります。

  3. (3)離婚した婿養子が親権者になる場合は「入籍」が必要

    ただし、旧姓に戻った婿養子が親権者となり、子どもを自分の戸籍に入れたい場合は、婿養子と子どもの姓を統一しなければなりません。そこで、家庭裁判所に「子の氏の変更許可」の申立てを行い、さらに子どもの戸籍を親の戸籍に入籍させる手続きが必要となります。これは、一般的な離婚で旧姓に戻った妻が親権者となった場合と同じなので、覚えておくとよいでしょう。

  4. (4)非監護親が支払う養育費を決める

    離婚する夫婦に子どもがいる場合、忘れてはならないのが養育費のことです。非監護親が養育費をどのタイミングでいくら払うのか、離婚時によく話し合っておきましょう。離婚時に決めておかなければ、その後遠く離れた場所に住むことになった場合に話し合いがしづらくなり、養育費が受けられなくなる可能性が高いためです。

  5. (5)面会交流について決める

    民法上、非監護親や子どもには面会交流をする権利(面会交流権)があります。離婚後も非監護親と子どもが交流をしたいと望んだ場合は、面会交流についても決めることが必要です。面会交流の頻度や場所・時間のほか、宿泊の有無、付添人の有無などを話し合っておきましょう。もし、非監護親が遠方に引っ越すことになったなどで定期的に会うことが難しい場合は、電話やメール、プレゼントなどのやり取りをするのでもよいでしょう。

5、まとめ

法律上婿養子となった夫が妻と離婚する場合は、一般的な離婚よりも少々煩雑な手続きを行わなければなりません。その上、妻とは不仲だったものの、妻の両親とは良好な関係でいられた場合は、妻の両親と養子縁組を解消するのは申し訳ないような気持になることもあるでしょう。

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