経済的DVを受けても離婚できる? シングルマザーになったときの相談先は?
- 離婚
- 経済的DV
- 離婚
「生活費を家に入れてくれない」「働きたいと言っても反対される」配偶者にこういった行為がみられたら、経済的DVの可能性があります。経済的DVは専業主婦(夫)や妊娠・出産で働くことのできない女性がDV被害者になる「ケースが多いと言えますが、これを理由に離婚はできるのでしょうか。また、離婚してシングルマザーになった場合、どのような支援が受けられるのでしょうか。
1、経済的DV夫の特徴
経済的DVとは、配偶者の金銭的な自由を奪うことを指します。配偶者の身体的に危害を加えるわけではありませんが、配偶者が金銭的自由を奪われることで、必要なものが買えない、子どもの教育費や医療費を支払えないなどの不利益が生じます。
-
(1)生活費を渡さない
経済的DV夫の特徴のひとつめは、妻に生活費を渡さないことです。妻が専業主婦で収入がない、もしくは収入が少ない場合、夫の生活費がなければ生活をしていくことができません。生活費を多少もらっていたとしても、育ち盛りの子どもや私立学校に通う子どもがいる場合は、足りないことも多くあります。
-
(2)妻が働くことを許さない
妻が働くことを許さないことも、経済的DV夫の特徴のひとつです。妻がパートやアルバイトの求人に応募しようとするのを阻止したり、採用が決まってもすぐに辞めさせられたりします。
-
(3)妻にお金を自由に使わせない
自分で稼いだお金のみならず、妻がパートなどで得た収入も正当な理由なくすべて取り上げて自由に使わせないのは、経済的DV夫の大きな特徴です。自分の渡した生活費を1円単位で厳しく管理する、妻が「生活費が足りない」と言えば「お前の家計管理の仕方が悪い」と罵倒するなどして、妻を追い詰めていくのです。
-
(4)妻の収入に依存して働かない
さらに、妻の収入に依存して働かないことも経済的DVにあたります。たとえば妻が正社員で働いていて毎月定期的な収入がある場合、夫は病気やけがで働けないなどの正当な理由なく、仕事を勝手に辞めてしまい、妻の収入に頼るようになることがあるのです。
2、経済的DVは民法上の離婚事由「悪意の遺棄」になる
「十分な収入があるはずの夫から経済的DVを受けて生活が苦しい」などの理由から離婚を考えたとき、経済的DVは離婚の原因として認められるのでしょうか。
-
(1)民法で定められた離婚事由とは
民法では、離婚が認められる事由を次の5つ定めています。離婚裁判になった場合は、当事者の主張する離婚原因がこのいずれかに当てはまっていることが必要になります。
- 配偶者に不貞行為があったとき
- 配偶者に悪意の遺棄があったとき
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
-
(2)経済的DVは「悪意の遺棄」になる
経済的DVは、上記の離婚事由のうち「悪意の遺棄」に該当すると考えられています。悪意の遺棄とは、正当な理由なくわざと配偶者を見捨てることを指します。十分な収入があるのに生活費を渡さないなどの経済的DVは、悪意の遺棄に該当し、離婚原因として裁判で主張できるのです。
-
(3)経済的DVは相互扶助義務違反にも
民法には、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められています。ここには、夫婦の「同居義務」「協力義務」「扶助義務」の3つが含まれていますが、経済的DVはこのうち、扶助義務に違反するものと考えられます。収入の多い方である夫が、十分な生活費を入れなければ、収入のないもしくは収入の少ない専業主婦の生活を扶助していないと考えられるためです。
3、経済的DV夫には婚姻費用・慰謝料・財産分与も請求できる
「生活費を家に入れてもらえないままでは生活が苦しいけれど、別れたくない」という方は、離婚以外に婚姻費用や慰謝料などを請求できます。また、離婚に至ったときには財産分も併せて請求が可能です。
-
(1)婚姻費用分担請求ができる
婚姻費用とは、婚姻生活にかかった費用のことで、家賃や光熱水道費、食費、日用品費、医療費などがこれにあたります。離婚成立前に別居した場合も、別居中の生活費を請求することが可能です。
今まで支払ってもらえなかったこれらの費用は、相手方に請求することで支払ってもらうことができます。まず当事者同士で協議を行いますが、協議ができない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てることにより、調停委員会の仲介のもとで話し合いを行い、夫が負担すべき婚姻費用を決定し、支払うように促すことができます。 -
(2)慰謝料請求もできる
夫が正当な理由なく生活費を支払わないなどの経済的DVを繰り返す場合は、それによって精神的な苦痛を受けたとして、夫に慰謝料を請求することが可能です。慰謝料の金額は、相手方がどの程度協力義務・扶助義務などを放棄していたかによって異なります。
-
(3)経済的DVの証拠となるもの
経済的DVを理由に慰謝料請求を行う場合は、生活費がまったく支払われていない、もしくは支払っていたとしてもその金額が不十分であることを示す証拠が必要です。たとえば、少ない生活費でやりくりしていることがわかる家計簿や、夫が単身赴任などで生活費が毎月銀行に振り込まれていた場合は、振り込みが途絶えたり金額が少ないことを示すための預貯金通帳などが有効でしょう。
-
(4)財産分与や養育費も受け取れる
離婚する場合は、相手方から財産分与も受け取ることが可能です。財産分与では、夫婦で築き上げた財産の2分の1ずつを夫婦それぞれが受け取るのが原則です。しかし、夫には十分な収入があるはずなのに生活費が支払われていないもしくは家に入れる生活費が少ない場合は、そのことを考慮して妻の方に大幅に上乗せされることがあります。
子ども(未成熟子)がいる場合は、養育費も忘れずに請求しましょう。養育費は、子どもが経済的に自立するまで(高校もしくは大学や専門学校などを卒業するまで)支払ってもらうことが可能です。
4、離婚後にシングルマザーが利用できる公的支援
夫の経済的DVに堪えられず離婚する場合、子どもがいればシングルマザーとして自分と子どもを食べさせるだけの収入を得ていかなければなりません。各自治体にはシングルマザーの支援制度が整備されているため、使える公的支援を活用するようにしましょう。
-
(1)子育てのための手当など
児童扶養手当 ひとり親家庭の子どもに対し、生活安定と自立促進のために支給される手当のこと 児童手当 すべての中学生以下の子どもに支給される手当 保育料の減免 ひとり親や低所得者の家庭の子どもを保育園に預ける際に保育料を無償にしたり一部減額にしたりするもの 就学補助 低所得者の家庭の子どもの小中学校への進学にあたり、必要な学用品日や給食費、通学用品費などを支給するもの 特別児童扶養手当 精神または身体に障害を持つ子どもを持つ親に対し、支給される手当 障害児童福祉手当 重度障害児に対し、負担軽減のために支給される手当 -
(2)シングルマザーへの就職支援
マザーズハローワーク 母親の就労を目的に求人紹介を行っている機関 自立支援給付金 対象の教育訓練を受講すると、修了後20万円を上限に経費の60%が支給されるもの 高等職業訓練促進給付金 看護師や介護福祉士などを目指して1年以上養成機関で修業する場合に、終業中の生活の負担軽減のために支給されるお金 -
(3)住居などに関する支援
母子生活支援施設 様々な事情で母子家庭となった母子を保護し、自立を支援するための施設 公営住宅の抽選優遇制度 住まいに困っている低所得者が入居できる公営住宅の抽選の当選確率を上げてもらえる制度 母子アパート 収入が少なく住まいに困っている母子が格安の家賃で住める賃貸住宅 ホームヘルプサービス ひとり親家庭の親が就労・病気などで、中学生までの子どもの保育や家事が困難になった時に一定回数ヘルパーを派遣する制度 -
(4)生活に対する支援
ひとり親家庭等医療費助成制度 ひとり親家庭の親子が病院を受診したときの医療費を自治体が負担するもの 上下水道の減免制度 水道・下水道料金の一部を免除するもの JR通勤定期券割引 JRの通勤定期乗車券を3割引で購入できるもの 無料(特別)乗車券の交付 都営・市営のバスや電車が無料で利用できる乗車券を交付するもの -
(5)経済的な支援
母子父子福祉資金貸付 20歳未満の子どもを扶養しているひとり親家庭の親に対し、就学・就労などで資金が必要となったときに、無利子もしくは低金利で資金を貸し付ける制度 ひとり親家庭高等職業訓練促進資金貸付金 就職に有利な資格取得を目指すひとり親家庭の親に対し、養成機関への修学を助けるために資金を貸し付ける制度 女性福祉資金貸付制度 親や子、兄弟姉妹などを扶養する女性に対し、修学や就職、転居などの際に資金を貸し付ける制度 応急小口資金 病気や被災、給与の盗難・紛失などで緊急に資金が必要となった低所得世帯に対し、無利子で資金を貸し付ける制度
5、経済的DVの相談先
生活費を支払ってもらえないなどの経済的DVの相談は、親しい間柄の方にこそなかなか相談できないものです。経済的DVでお困りの場合は、友人や知人、親族ではなく、第三者に相談したほうが問題解決への近道となるでしょう。
-
(1)配偶者暴力相談センター(女性センター)
まず、経済的DVを相談できる窓口として、配偶者暴力相談センター(女性センター)があります。機関の名称からして、配偶者に殴る・蹴るなどの直接的な暴力行為を受けたりや暴言を吐かれたりした方が対象になると思う方もいるかもしれません。しかし、経済的DVを受けている方も相談の対象となりますので、安心して相談しましょう。
-
(2)福祉事務所
また、地域の福祉事務所に相談する方法もあります。福祉事務所とは、福祉を必要とする方に対して訪問や来所での面接を行い、援護や育成、更生措置、生活の指導などを行う期間です。生活に困窮している方の相談や母子生活支援施設への入所や母子福祉資金の貸付に関する相談を受け付けてもらえます。生活保護の実施についてもここで行っています。
-
(3)弁護士
経済的DVを繰り返す夫との離婚や、夫への慰謝料・婚姻費用の請求を視野に入れている場合は、弁護士に相談するのがよいでしょう。弁護士であれば、ただ単に相談に乗ってもらえるだけでなく、個々のケースに応じて根本的な解決を図ることができます。離婚や慰謝料・婚姻費用の請求に関する法律相談を初回は無料で行っている法律事務所も多いので、離婚問題の経験豊富な弁護士を見つけて一度相談してみるとよいでしょう。
6、まとめ
夫婦には、相互に協力し、扶助する義務があります。そのため、収入の多い方が生活に必要な費用を負担する義務があると言えます。自分の方が収入が多いとわかっていて生活費を渡さなかったり、専業主婦の妻に対して就労を阻止したり就労してもすぐに辞めさせたりするのは経済的DVにあたります。
夫に生活費を入れるように何度言っても聞き入れてもらえない方、夫の経済的DVにより生活が困窮する心配のある方は、お早めにベリーベスト法律事務所 那覇オフィスまでご相談ください。DV問題や離婚問題の経験豊富な弁護士が、お客様のご希望に応じて最適な解決方法をご提案いたします。初回の法律相談料は無料なので、どうぞお気軽にご来所ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています