泡盛が大好きな方は要注意! アルコール依存症の夫(妻)とは離婚できる?
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沖縄県は、泡盛の文化が根付いていることが象徴するように、飲酒の習慣を持つ人の割合が多いのが特徴です。沖縄県の調べによれば、飲酒をする人の割合は男性で90.6%、女性で76.5%にも上ります(※)。そこで沖縄県は、医療関係者や自助グループらとともに2018年にアルコール依存症などを予防すべく「県アルコール健康障害対策推進計画」を初めて策定しました。
配偶者がアルコール依存症だと、苦労が絶えず離婚を考える方もいらっしゃると思います。今回は、アルコール依存症の夫(妻)と離婚できるか否か、離婚を考える前にできることは何かについて解説します。
※:沖縄県「沖縄県のアルコールに関する現状と課題」
1、アルコール依存症の特徴
「アルコール依存症」と「単なる飲み過ぎの状態」は、区別がとても難しいもの。そのため、しばらく様子を見ているうちに治療が遅れてしまうことも少なくありません。では、アルコール依存症にはどのような特徴があるのでしょうか。
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(1)飲酒量・時間・状況がコントロールできない
アルコール依存症者は、飲酒量・時間・状況の3つがコントロールできないことが特徴です。「最初の1杯だけ」と思っていても何杯も飲んでしまう、「○時から○時まで飲む」と決めていても、時間を守れずいつまでも飲んでしまう、仕事や大事な約束の前にも関わらず飲んでしまうなどがその例です。
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(2)身体的な症状が現れる
アルコール依存症の方は、アルコールが切れると48時間以内に手の震え発汗、吐き気、けいれんなどの身体的な症状が現れます。48時間以降には、幻覚や興奮などの症状がみられることもあります。これらの症状を「離脱症状」と言います。それらの症状を抑えようとしてまたお酒に走り、ますますお酒への耐性が付くので多少飲んでも症状が治まらなくなってくるのです。
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(3)ほかの病気を併発していることも多い
アルコール依存症になると、アルコールの影響でほかの病気を併発するリスクも非常に高くなります。たとえば、肝硬変やアルコール性肝炎などの肝臓病や、心筋梗塞、狭心症、食道静脈瘤などの食道の病気、急性・慢性の膵炎など内臓の病気にかかるケースが非常によく見られます。また、うつや不安障害など、心の病気にかかるリスクがあることも看過できません。
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(4)家族や職場が巻き込まれる
アルコール依存症によって、家族や職場の同僚など周囲にも影響が広がっていってしまうのが3つめの特徴です。家庭では、いさかいが絶えなくなり、DVやモラハラにつながることも珍しくありません。また、職場では遅刻や欠勤が増えたり、二日酔いで仕事に集中できず、ミスが続いて同僚や取引先とトラブルを起こしてしまったりすることもあります。
2、アルコール依存症の夫(妻)と離婚できる?
では、配偶者がアルコール依存症になった場合、それを理由に離婚できるのでしょうか。離婚できるかどうかは、アルコール依存症が離婚事由に当たるかどうかがカギとなります。
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(1)民法の離婚事由にあたることが条件
アルコール依存症の夫(妻)と離婚する場合は、配偶者がアルコール依存症であることが民法上の離婚事由にあたることが条件となります。民法で定められている離婚事由は以下の5つです。
- ①配偶者が不貞行為をはたらいたとき。
- ②配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- ③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
- ④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
協議離婚にはこのような条件はありませんが、離婚裁判になった場合は、アルコール依存症に起因する離婚原因がこのいずれかにあてはまらなければ離婚を認めてもらうことができないことに留意する必要があります。
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(2)「強度の精神病」にあたるか
アルコール依存症は病気の一種なので、上記離婚事由の中の「強度の精神病」にあたるのではないかと考える方も多いでしょう。しかし、アルコール依存症は本人や家族の努力によって回復可能な病気とされているため、ここでいう「強度の精神病」には当たらないとされています。
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(3)「悪意の遺棄」にあたるか
アルコール依存症そのものが離婚事由にならなくとも、アルコール依存症になった結果「給料をすべて酒につぎ込んで生活費を入れなくなった」「飲み歩いて家に帰ってこなくなった」などの場合は、「悪意の遺棄」が成立する可能性があります。
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(4)「その他婚姻を継続しがたい事由」にあたるか
配偶者のアルコール依存症が原因で夫婦仲が悪化し、口もきかない状況が長期間続いた場合は、「その他婚姻を継続しがたい事由」があるとして離婚が成立する場合があります。離婚裁判になった場合は、相手方がアルコール依存症になったことによって婚姻関係が破綻したと言えるかどうかが、離婚が認められるかどうかの分かれ目となるようです。
3、アルコール依存症の夫(妻)と離婚時の注意点
「アルコール依存症の夫(妻)とはもう一緒に暮らしていけないから」と離婚を検討する方もいらっしゃると思います。しかし実際に離婚する際には、注意したいことがあります。では、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
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(1)証拠をそろえる
裁判で離婚を争うときに備え、夫(妻)がアルコール依存症であることを示す証拠をそろえておきましょう。たとえば、医療機関の診断書やお酒を買った時のレシート、配偶者が泥酔状態で倒れている様子を撮影した写真や動画、酩酊状態でわけのわからないことを言っているときの音声・動画などが有効です。また、家に生活費を入れていない場合は、給与振込口座の預金通帳などもあればよいでしょう。
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(2)別居する
また、婚姻関係が破綻していることを示すために別居することも有効です。特に、相手方が飲酒しているときに自分や子どもに暴力をふるったり暴言を吐いたりする場合は、あらかじめ持ち出す荷物をまとめておき、一刻も早く家を離れましょう。我慢していると、自分の心身に変調をきたしたり、子どもにも悪影響を及ぼしたりすることがあります。
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(3)療養・看護のめどが立っていることを示す
離婚調停や離婚裁判では、相手方のアルコール依存症を理由に離婚しようとすると、離婚・別居した後に、依存症者を看護する人がいるのかどうかが問題になることがあります。その場合は、「相手方の両親やきょうだいが近くに住んでいて面倒を見てもらえる」など、相手方の療養・看護のめどが立っていれば離婚が認められやすくなります。
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(4)慰謝料は取れない可能性が高い
相手方のアルコール依存症による言動に苦しめられたときは、精神的苦痛を受けたとして相手方に慰謝料請求を検討する方も多いと思います。しかし、慰謝料請求して請求が認められても、相手方の支払能力によってはほとんど取れない可能性があります。その場合は、慰謝料の代わりに離婚時に財産分与を請求し、マイホームや車などがあればそれらを慰謝料の代わりに取得することも考えられるでしょう。
4、アルコール依存症の夫(妻)のために離婚前にできること
アルコール依存症の夫(妻)との生活がつらくても、家族の働きかけによって症状が改善されれば、もとの夫(妻)に戻れる可能性があります。そうすれば、離婚の必要もなくなるかもしれません。離婚を考える前に家族ができることとは何でしょうか。
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(1)精神保健福祉センターや保健所に相談する
アルコール依存症の問題は、できれば家族の中で解決したいと思う方が多いでしょう。しかし、アルコール依存症は本人や家族の努力だけではどうにもならず、きちんと医療機関で治療をすべき病気であることを認識することが必要です。どの医療機関に行けば良いかわからない場合は、地域の精神保健福祉センターや保健所に相談してみましょう。そうすれば、適切な医療機関などを紹介してもらえます。
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(2)適切な治療を受けさせる
アルコール依存症は家族だけで対応しようと思っても限界があります。夫(妻)にアルコール依存症の疑いがあれば、まずは内科や精神科に連れていき、適切な治療を受けさせましょう。アルコール依存症専門の診療科を持つ医療機関も徐々に増えてきているので、必要があればそういった専門の医療機関を紹介してもらいましょう。状態により、通院しながら治療を進める場合と、入院して治療を行う場合がありますので、どちらが良いかは主治医と相談の上決定します。最近では軽症者を対象にした「減酒外来」も開設されており、治療へのハードルは下がってきています。
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(3)自助グループに参加する
治療を進め、離脱症状が落ち着いてきたら、夫(妻)と一緒に自助グループに参加し、依存症について学ぶのも良いでしょう。アルコール依存症の自助グループには、「断酒会」「AA(Alcoholics Anonymous)」などの組織が存在します。
参加者は皆アルコール依存症の経験者やその家族なので、治療からドロップアウトしそうになったときや治療に対する不安やストレスを感じたときに、気軽に相談し合うことができます。何度も通っているうちに、自助グループの仲間が心の支えとなり、社会復帰へ向けて前進することができるでしょう。 -
(4)アルコール依存症の症状に巻き込まれない
アルコール依存症の患者は、家族に飲酒を注意されるとそれを理由にまた飲酒をしようとします。家族も相手方が言うことを聞かないあまり、「夫(妻)が依存症になったのは自分のせいではないか」と自分を責めてしまう傾向があります。しかし、自分の精神状態を良好に保つためには、依存症者の思考には巻き込まれないことが大切です。また、飲酒が原因で配偶者が何かトラブルを起こしても、家族はあえてかばおうとせず、本人に責任を取らせることも重要です。
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(5)弁護士に相談する
「飲酒が原因で事件や事故を起こした」「お酒を手に入れるために多額の借金をしていた」などの場合は、弁護士に相談して問題解決をサポートしてもらいましょう。また、相手方のアルコール依存症が原因で離婚したいときも、まずは弁護士に相談し、離婚するのがベストかどうか、どの離婚方法を取ればよいかなどについてアドバイスをもらいましょう。
5、まとめ
アルコール依存症は完治するのが難しい病気ですが、適切な治療や周囲のサポートを受けることにより、断酒ができるようになります。もしそれでもアルコール依存症の夫(妻)と離婚したいとお考えの場合は、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスまでご相談下さい。離婚問題の経験豊富な弁護士が裁判になったときのことを見据えて解決策をご提案いたします。弁護士費用が心配な方は、クレジットカード決済や分割払いも承りますのでお申し出ください。
家族にアルコール依存症の患者がいることはなかなか第三者には相談しにくいものですが、秘密は厳守いたします。一人で悩まずにお気軽に当事務所までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています