飛行機内での迷惑行為は犯罪になる! 問われる罪や罰則を解説
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令和2年3月、離陸前の国内線の飛行機内で、乗客の男が感染症の罹患(りかん)を疑わせる発言をし、故意に運航を遅らせたとして警察に逮捕される事件が発生しました。
令和2年9月には、やはり国内線の飛行機内で、感染症予防のためのマスク着用を拒否した男が客室乗務員やほかの乗客と口論になるなどのトラブルを起こし、飛行機が臨時着陸する事件が起きました。同事件を起こした男は翌年1月に、威力業務妨害、傷害、航空法違反の疑いで逮捕されています。
那覇空港は都市部からの観光・ビジネスの窓口としてだけでなく、「県民の足」として本島と離島を連絡する重要な役割を担っている空港で、国内有数の発着本数を誇ります。空港や飛行機を利用する機会が多い環境であれば、飛行機内で発生したトラブルは、決してひとごとではないでしょう。このコラムでは、飛行機内での迷惑行為を罰する犯罪や逮捕の可能性について、那覇オフィスの弁護士が解説します。
1、飛行機内での迷惑行為とは
国内外への移動手段として飛行機の利用が広く浸透した現代では、電車やバスといった陸上交通機関で起きるのと同様の迷惑行為やマナー違反が増加傾向にあるそうです。
飛行機は、その特性上から迷惑行為が大事故に直結する危険があるため、法律によって厳しい規制が設けられています。
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(1)迷惑行為は「安全阻害行為等」となる
飛行機の安全な航行を確保する目的で定められている「航空法」では、第73条の3において「安全阻害行為等の禁止等」という項目が規定されています。
条文に掲げられている「安全阻害行為等」にあたるのは、次の4つの行為です。- 航空機の安全を害する行為
- 航空機内の搭乗者または財産に危害を及ぼす行為
- 機内の秩序を乱す行為
- 機内の規律に違反する行為
この規定は「航空機内にある者」を対象としているため、パイロットや客室乗務員はもちろん、乗客も含めてすべての人の安全阻害行為を禁じています。
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(2)飛行機内で禁止されている「安全阻害行為等」は8つ
航空法の施行に必要な細則を定める「航空法施行規則」第164条の16には、さらに安全阻害行為等にあたる具体的な行為を規定しています。
- ① 乗降口・非常口の扉の開閉装置を正当な理由なく操作する行為
- ② トイレでの喫煙行為
- ③ 乗務員の職務執行を妨げ、安全の保時、乗客・財産の保護、秩序・規律の維持に支障を及ぼすおそれのある行為
- ④ 携帯電話などの運行の安全に支障を及ぼすおそれのある電子機器を正当な理由なく作動させる行為
- ⑤ 離着陸時や機長(パイロット)からの指示によって座席ベルトの着用を指示されたときに正当な理由なく装着しない行為
- ⑥ 離着陸時に、座席の背もたれ・テーブル・フットレストを正当な理由なく所定の位置に戻さない行為
- ⑦ 手荷物などを非常時の脱出の妨げになる場所に正当な理由なく置く行為
- ⑧ 消火器や救命胴衣などの非常用機器を正当な理由なく操作・移動・損壊する行為
これらの行為があった場合は、航空法第73条の4第1項の規定に基づき、拘束や降機といった強制措置が取られることもあります。
なお、これらの安全阻害行為等は、飛行機が離陸のためにすべての搭乗口を閉ざしたときから、着陸していずれかの搭乗口が開かれるまで禁止されています。つまり、離陸前・着陸後に滑走路を移動している状態でも、安全阻害行為等があれば強制措置が取られることもあるので注意が必要です。
2、迷惑行為は罪に問われる可能性がある
飛行機内で安全阻害行為等にあたる迷惑行為をはたらいた場合は、刑罰が科せられることがあります。
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(1)安全阻害行為等にあたる場合
安全阻害行為等(乗降口や非常口扉の開閉装置を正当な理由なく開閉する行為やトイレでの喫煙等航空法第73条の4第5項で規定された行為)をはたらき、機長から当該行為を反復継続してはならない旨の命令を受けたにもかかわらず、当該行為を反復・継続した場合は、航空法第150条5の4号の規定によって50万円以下の罰金が科せられます。
懲役・禁錮といった身柄を拘束する刑罰は規定されていないものの、罰金はれっきとした刑罰のひとつであり、有罪となれば前科がつくことになります。 -
(2)安全阻害行為等以外にあたる場合
迷惑行為が安全阻害行為等に該当しなければ、罰せられないというわけではありません。
客室乗務員への暴力があれば暴行罪や傷害罪に、脅迫があれば脅迫罪に、性的な嫌がらせがあれば強制わいせつ罪や各都道府県が定める迷惑防止条例が成立するでしょう。
また、機外から飛行機に向かってレーザーポインターなどで強い光線を照射する、滑走路の周辺で凧・風船・ドローンなどを飛ばすといった行為によって、航空機の安全な運航を妨害した場合は、刑法第234条の「威力業務妨害罪」や、航空危険行為処罰法第1条の「航空危険罪」が成立するおそれがあります。
威力業務妨害罪は3年以下の懲役または50万円以下の罰金が、航空危険罪は3年以下の懲役が規定されている重罪です。
機内・機外にかかわらず、迷惑行為は厳しく罰せられると心得ておきましょう。
3、逮捕される可能性
飛行機内での安全阻害行為等や飛行機に向けての迷惑行為をはたらくと、犯罪の被疑者として逮捕される可能性があります。
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(1)危険性が高い迷惑行為は逮捕の可能性が高い
飛行機は、多くの乗客を遠隔地まで高速で移動させることが可能な優れた交通機関です。一方で、ひとたび事故が発生すれば避難はほぼ不可能であり、乗客・乗員の生命が失われてしまう可能性が高いため、ほかの交通機関よりも格段に高い安全確保が必要となります。
安全阻害行為等にあたる迷惑行為をはたらき、機長からの警告にも従わずに迷惑行為を続けていれば、航空法第73条の4第1項による拘束を受ける可能性があると同時に、逮捕される可能性もあります。
また、搭乗客にサービスを提供する業務を担当するだけでなく、緊急時の保安要員としての役割も担っている、客室乗務員への暴言・威嚇・わいせつ行為なども、やはり同様に逮捕の可能性があります。
酔いに任せたいたずらや、たとえ冗談のつもりだったとしても、客室乗務員への迷惑行為は、安全を脅かす行為として厳しい対処を受けることがあることを忘れてはいけません。 -
(2)後日になって逮捕されることもある
冒頭で紹介した事例のように、飛行機内での迷惑行為から数か月後に逮捕されるケースもあります。
安全阻害行為等にあたるものの多くは、航空法施行規則の条文を見ると「正当な理由がある場合」には違法となりません。
たとえば、警告を受けた際に正当な理由があることを主張して逮捕を免れたとしても、警察の捜査によって特段の正当な理由がなかったことが判明すれば、後日逮捕される可能性はあります。
また、機外から飛行機に対してレーザー光線を当てるなどの迷惑行為も、防犯カメラの解析などによって個人が特定されるおそれがあるので、バレていないと思っていても後日逮捕される可能性はあるでしょう。
4、国際線の場合はどの国の法律で裁かれるのか
出発地と目的地の両方が日本国内の国内線では、航空法や刑法といった日本の法律が適用されます。
では、日本と海外を結ぶ国際線の場合は、どの国の法律が適用されるのでしょうか。
まず、日本国内の航空会社が所有している日本国籍の飛行機内で起こった犯罪は、刑法第1条2項の規定によって日本の刑法が適用されます。
これを「旗国主義」といい、国家の領土主権の効果は自国の航空機・船舶にも及びます。
一方で、法律の適用における考え方としては「属地主義」の影響も考慮しなければなりません。
属地主義とは、自国の領域内では自国の法律を適用するという考え方です。
海外の領空を飛行中の飛行機は属地主義の影響も受けるため、迷惑行為をはたらいた人の国籍を問わず、現地の法律が適用される可能性もあります。
実際に、平成26年に日本国籍の機内でトラブルを起こした日本人男性が、臨時着陸した米国内で連邦捜査局(FBI)に逮捕されたことが報道されています。
国際線の飛行機は、旗国主義と属地主義の両方が適用される特殊な立場であるものの、迷惑行為をはたらけば、国内・国外の法令によって身柄拘束や刑罰を受けるおそれがあるでしょう。
5、まとめ
飛行機内での迷惑行為は、航空法・航空法施行令の規制によって身柄の拘束を受けるだけでなく、刑罰も規定されている犯罪行為です。
また、迷惑行為が安全阻害行為等にあたらない場合でも、日本国籍の飛行機内で起きた犯罪は日本の刑法が適用されるため、暴行罪・傷害罪・脅迫罪・強制わいせつ罪といった罪に問われる可能性もあります。
電車やバスといった陸上交通機関とは異なり、飛行機は非常に高い安全確保が求められるため、迷惑行為は逮捕・刑罰といった厳しい処分を受ける可能性が高いでしょう。
飛行機内でトラブルを起こしてしまい、逮捕されるおそれがある場合は、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスまでご一報ください。
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- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています