夫源病で体調不良に……こんな理由で離婚はできる?
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近年、夫の言動が原因で体調を崩す「夫源病」とも言うべき症状に苦しむ女性が増えています。インターネット掲示板やSNSでは、「夫が平日昼間に家にいるとストレス」「(年末年始前になったら)動悸がする」といった妻たちの声は少なくないようです。2018年には、有名女性タレントが夫源病と診断されたことをテレビ番組で告白、その後夫と別居状態にあることが報道されています。
夫源病による体調不良から立ち直るには、離婚するしかないと考える方も多いでしょう。しかし、夫源病を理由に離婚はできるのでしょうか。ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスの弁護士が解説いたします。
1、夫源病とは
夫源病とは、その名の示す通り、夫による言動によって引き起こされる心や体の病のことを言います。ここではまず、夫源病でよくみられる症状や病名、夫源病になりやすいタイプについて解説します。
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(1)夫源病でよく見られる症状
夫源病でよくみられるのは、以下のような症状です。主にストレスによる自律神経の乱れが原因であると言われています。既婚の女性で、これらの症状がみられたら要注意です。
- 動悸・息切れ
- めまい
- 不眠
- 頭痛
- 食欲不振
- 気分の落ち込み
- ホットフラッシュ(顔ののぼせ、ほてり) など
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(2)症状の出やすいタイミング
上記のような症状の出やすいタイミングとしては、夫が帰宅するときや、夫がいる家に自分が帰宅するときなどがあげられます。また、お盆や年末年始、ゴールデンウイークなどには夫とずっと一緒に過ごさなければならないことが多いため、これらの長期休暇の前にも症状が起きやすいようです。逆に、夫が出張や単身赴任で家にいなくなると、すぐに症状が回復する傾向があります。
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(3)こんな病気と診断されたら夫源病かも?
ストレスによる自律神経の乱れにより、以下のような病気にかかりやすくなります。夫との日頃の関係性にもよりますが、このような病気と診断されたら、併せて夫源病であることを疑ったほうがよいのかもしれません。
- 本態性高血圧症(原因不明の高血圧症)
- 突発性頭痛
- 突発性難聴
- メニエール病
- 不整脈
- 神経性胃炎
- 過敏性腸症候群
- 慢性疲労症候群
- 線維筋痛症
- 自律神経失調症
- うつ病
- 更年期障害 など
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(4)夫源病になりやすいのはこんな人
夫源病になりやすいのは、良妻賢母タイプの女性です。結婚後、家事や育児をしっかりこなす日々を送る中、夫に気に障ることを言われても、良き妻・良き母であろうとして自分の感情を抑え込んでしまう。それが積み重なった結果、ストレスが身体の不調として現れてくるのです。
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(5)最近の傾向
もともと夫源病になりやすい世代は、夫が定年退職を迎える時期である50~60代が中心でした。しかし、最近では、20~30代の若い女性がかかるケースも珍しくありません。このように、若い女性がかかる夫源病のことを特に「若年性夫源病」と呼ぶこともあります。
2、夫源病を引き起こしやすい夫のタイプ
次は、夫源病を引き起こしやすい夫のタイプについて見ていきましょう。夫源病を引き起こすのは、主に昭和時代の価値観を持つ中高年層の男性に多く見られていましたが、近年は若い男性も目立ちます。
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(1)昭和時代の亭主関白タイプ
夫源病を引き起こしやすい典型的な例が、昭和の時代によくみられた亭主関白タイプです。「専業主婦の妻は夫に従うもの」「外で働いている夫は妻より偉い」という考えを持つ男性が定年を迎え、毎日家にいるようになっても家事もせず、何でも妻にやらせることで、妻はストレスがたまり、不調を訴えるようになるのです。
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(2)妻の話を聞かない
また、妻がその日あったことを話したり、何か相談しようとしたりしたときに、うわの空で妻の話をきちんと聞かず、生返事ばかりする男性も、妻の夫源病を引き起こしやすいと言えるでしょう。
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(3)妻の外出につきまとう
ヒマだからといって、妻がちょっと近くのスーパーへ買い物に行くときにも夫が一緒について行こうとする、逆に自分が出かけるときにも妻について来させるなども、妻にとってストレスを感じでしまうケースもあります。夫が妻の行く先々についていくことで、夫源病を引き起こしやすくなります。
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(4)妻が働きに出るのを許さない
また、特に若い夫婦に多く見られるのが、妻が働きに出るのを夫が許さないことです。「自分のものは自分で買いたい」等の目的で働きに出ようとすると、家のことより他のことを優先させて家事がおろそかになることをいやがって、反対する夫も少なくないと言います。
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(5)外面が良い
近年はイクメンがブームになっていますが、家では子どものことをほったらかしにしているのに、外では子どもと遊ぶ姿を見せて育児に積極的に参加していることをアピールする男性もいます。このように、外面が良い男性は家にいるときは何もしないことが多く、それが妻にとってストレスの原因になり得るのです。
3、夫源病を理由に離婚できる?
夫源病を原因とする体調不良が続いていると、妻がしだいに「離婚したい」と考えたくなるのもうなずけます。しかし、夫源病による体調不良を理由として、相手方と離婚はできるのでしょうか。
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(1)熟年離婚が増えている
最近では熟年離婚が増えていると言います。熟年離婚に明確な定義はありませんが、婚姻期間が20年以上の夫婦による離婚を熟年離婚としましょう。
厚生労働省のデータによれば、同居期間が20年以上の夫婦の離婚件数は、昭和60年には20434件だったのが、平成17年には40395件とおよそ2倍に増加、平成27年には多少減っていますがそれでも38641件と高止まりしています。
参考:厚生労働省「平成27年 人口動態統計月報年計(概数)の概況」
熟年離婚数が増加している要因のひとつには、夫源病もあるのではないかと考えられています。事実、平成29年度の司法統計によれば、女性の離婚の申立て動機では、「精神的に虐待する」が「性格が合わない」(39.4%)「生活費を渡さない」(28.9%)に次ぐ第3位(25%)となっていました。
参考:裁判所「第19表 婚姻関係事件数 申立ての動機別申立人別 全家庭裁判所」 -
(2)夫源病が離婚事由にあたるか
では、夫源病は法律上離婚事由にあたると言えるのでしょうか。民法で定められている離婚事由には、以下の5つが挙げられています。
- ①配偶者に不貞な行為があったとき
- ②配偶者から悪意で遺棄されたとき
- ③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- ④配偶者の強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
夫源病は上の①~④にはあてはまらないため、離婚事由として挙げるとすれば⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときになるでしょう。
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(3)「婚姻を継続しがたい重大な事由」であることを立証するには
では、夫源病が「婚姻を継続し難い重大な事由」であることを立証するには、具体的にどのように主張を展開すればよいのでしょうか。
方法としては大きく分けて2つあります。ひとつは離婚を申し立てる前に別居することです。ただし、熟年離婚の場合は相当長期間の別居が必要となる可能性が高いことに留意する必要があるでしょう。
もうひとつは、夫のモラハラ(精神的なDV)を証明する方法です。夫が威圧的な態度で命令してくる、「子どもの成績が悪いのはお前の頭が悪いせいだ」など人格を否定するようなことを言ってくるなどの場合は、夫の言動を動画や音声で記録しておきましょう。そうすることで、日常的に夫によるモラハラが繰り返されており婚姻の継続が難しいことを証明できる可能性が高まります。また、うつ病などの精神疾患にかかってしまった場合は、医師の診断書も添えるとより強固な証拠になります。
4、離婚を考える前にすべきこと
離婚を考える前に、一度踏みとどまって行うべきことがいくつかあります。これらをすることで、夫婦関係が修復できて離婚せずに済む可能性もゼロではありません。離婚前にすべきこととは、どのようなことなのでしょうか。
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(1)夫と言いたいことを言い合う
夫源病の原因は、夫にイラっとすることを言われても自分の感情を押し殺していることにあります。なので、夫に日頃から言いたいことを言い合う場を設け、自分の気持ちを洗いざらい相手にぶつけましょう。2人きりの場所ではためらわれる場合は、夫婦でカウンセリングを受けに行き、医師やカウンセラーに同席してもらうのも良い方法です。日常的に言いたいことを言い合える関係になれば、次第に夫源病の症状も改善に向かうでしょう。
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(2)積極的に外に出る
妻が専業主婦の場合は、積極的に家の外に出るのも効果的です。趣味サークルで活動したり、家計の足しにするためにパートで働いたりするのもよいでしょう。以前、朝の情報番組「あさイチ」では、夫源病の解消方法として1日から数日間家を空ける「プチ別居」もすすめられていました。夫と離れる時間を持つことでストレスが発散でき、気持ちにゆとりができて夫に対する気持ちの持ちようも変わるようです。
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(3)精神的にまいっているときは離婚の決断をしない
夫源病がもとでうつ状態になっている、精神的にまいっているというときには、離婚などの重大な決断は避けるべきでしょう。きちんと治療やカウンセリングを受け、症状が回復すれば冷静に判断できるようになるため、離婚はそれまで待ったほうがよいと考えられます。
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(4)当面の資金を確保する
夫との関係を修復できずどうしても離婚したい場合は、離婚後の生活資金を確保しましょう。夫と別居した後は、自分が生活費を支払わなければなりません。夫から生活費をもらっているのであればその一部を貯蓄にまわす、パートなど働きに出るなど、工夫して資金を貯めるようにしましょう。資金の確保が難しい場合は、一時的に実家に移り住んだり、親きょうだいから支援してもらったりするのもひとつの方法です。
5、離婚方法の種類とそれぞれの手順
夫源病に限らず、何らかの原因で離婚に至ったとき、利用できる離婚方法には以下の3つがあります。それぞれについて、必要な手続きや手順について解説します。
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(1)協議離婚
協議離婚とは、夫婦間の話し合いだけで離婚を成立させる方法です。離婚にあたり、財産分与や婚姻費用の分担、未成年の子どもがいる場合は養育費や親権をどうするかを話し合う必要があります。お金のことは離婚後でも決めることができますが、親権はどちらが持つか決めておかなければ役場で離婚届を受理してもらえません。そのため、親権のことでもめるようであれば、早期に離婚を成立させるために弁護士に一度相談すべきでしょう。
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(2)調停離婚
調停離婚とは、家庭裁判所に調停を申し立て、調停委員の仲介のもとで夫婦での協議を行う方法です。調停委員が双方の主張を聞き、解決案を提示します。それに両者が合意すれば調整が成立となりますが、どちらかが合意しない場合は、調停不成立となります。
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(3)裁判離婚
裁判離婚とは、家庭裁判所に離婚訴訟を提起し、裁判で離婚を認めてもらう方法です。裁判離婚では離婚原因が民法上の離婚事由のいずれにあたるのかを主張した上で、その主張を裏付ける証拠資料を提示し、立証を行います。裁判官が夫婦双方の主張を聞いたうえで、最終的に確定判決を下します。
6、まとめ
夫源病は有名女性タレントがかかったことがきっかけで、最近になってようやく世間に認知され始めた病気なので、まだまだ知らない方も多いのではないでしょうか。「夫が家にいると体調が悪くなるが、家を空けると体調が良くなる」という場合は、夫源病かもしれません。
夫源病は、夫婦の関係性が良くなれば改善する可能性はありますが、夫源病による離婚を考えておられる方は、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスまでご相談ください。お客様にとって最善の解決策を弁護士が一緒になって考え、全面的にサポートいたします。「ちょっと相談したい」というだけでも構いません。どうぞお気軽に当事務所にお立ち寄りください。
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