奨学金は債務整理できる? 手順とおさえておくべき注意点
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多くの学生が「奨学金」制度を利用しているなか、卒業後の返済に苦慮している人の増加が問題になっています。独立行政法人日本学生支援機構が3カ月以上の延滞がある人を対象におこなったアンケートによると、延滞の理由は「本人の低所得」や「奨学金の延滞額の増加」が多いことが判明しました。
このような現状があるなかで、沖縄県は、県外の大学を卒業し県内企業にUターン・Iターン就職した社会人の奨学金返済を支援する制度を令和4年度に創設することを明らかにしています。上記の制度は、奨学金の返済問題を解決する大きな手助けになることが期待されています。
就職できない、解雇されて再就職先が見つからないといった状況に置かれている方は、「奨学金を法的に整理したい」と考えられることでしょう。本コラムでは、奨学金の延滞をしたらどうなるか、債務として奨学金を整理する方法などに関する法律的なポイントについて、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスの弁護士が解説します。
1、奨学金の返済(返還)を延滞するとどうなる?
大学・短期大学・高等専門学校・専修学校・大学院に在籍している間に「貸与型」の奨学金を利用していた場合は、貸与終了から数えて7カ月目から、返済(返還)が始まります。
貸与型の奨学金は、実質的には「借金」であるため、返済が必要になるのです。
もし奨学金の返済が滞ってしまうと、以下のような不利益が生じることになります。
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(1)延滞金が加算される
約束の期日に返済できなかった場合は、延滞した日数に応じて「延滞金」が加算されます。
延滞金は残っている元本に対して1年365日あたり3%程度の割合で計算されるのが一般的であるため、返済残額が大きいほど加算額も大きくなります。 -
(2)一括返済を求められる
延滞が続くと、奨学金を貸与した機構や委託を受けた債権回収会社からの督促を受けます。
督促を受けた段階では、期日分を返済すれば問題はありません。
ただし、度重なる督促を無視して返済しなかった場合は、元本に加えてすでに発生している利息と延滞金を一括で返済するよう求められることになるのです。
本来、借金は「すぐに全額を返済する」ことを期待されますが、奨学金のように期日を設けて分割で返済する場合には、返済期限が訪れる日まで一括返済を求められず、分割で返済をしていくことになります。これを「期限の利益」といいます。
しかし分割での返済を怠ると、この「期限の利益」を喪失し、分割ではなく一括での返済を求められることになります。 -
(3)信用情報機関に事故情報が登録される
延滞が3カ月を過ぎると「信用情報機関」に事故情報が登録されてしまいます。
信用情報機関とは、個人の借金の履歴などをあらわす「信用情報」を管理する組織です。
国内には、以下の3つの機関が存在します。- 株式会社シー・アイ・シー(通称:CIC)
- 株式会社日本信用情報機構(通称:JICC)
- 全国銀行個人信用情報センター(通称:KSC)
これらは相互に情報を共有しているため、どの組織に延滞の情報が登録されても、金融事故の存在が発覚する仕組みになっています。
信用情報機関に事故情報が登録された状態とは、いわゆる「ブラックリストに登録された」と呼ばれる状態のことです。
この状態になると、新たなローンやクレジットカード発行の申し込み、スマホ端末代金の分割払い、賃貸物件の家賃保証契約、カーリースなど、さまざまな場面において不利が生じてしまうのです。
2、どうしても返済が難しい! 債務整理を検討する前にできること
「奨学金の返済が苦しくて生活を圧迫している」「すでに数か月の滞納が続いている」といった状況では、「なんとかして楽になりたい」と考えるのが当然でしょう
消費者金融やクレジットカードのリボ払いなどで借金がかさんでしまったときには「債務整理」によって、法的に借金の負担を軽くすることができます。
ただし、奨学金はそもそも営利目的の貸し付けではないため、返済が難しいときの救済策が用意されています。
債務整理を考える前に、まずは奨学金の制度内に用意された方法で負担の軽減を図りましょう。
なお、奨学金制度の母体となっている組織・団体には、さまざまな種類が存在します。
以下では、多くの学生が利用している「日本学生支援機構(通称:JASSO)」の制度を例にしながら、救済策について紹介します。
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(1)月々の返済額を小さくしてもらう
災害に遭ったり病気やけがをしたりしたなどの理由で奨学金の返済が難しくなってしまったケースでは、当初約束した月々の返済額を減らせば返済を続けられる場合には「減額返還」の利用が可能です。
JASSOでは1回の申請によって12カ月間の減額が受けられて、返済期間も最長15年・180カ月まで延長できます。
経済的困難を理由とした場合の収入基準は、以下の通りになります。- 給与所得者……年間収入が325万円以下
- 給与所得以外の所得がある場合……年間収入が225万円以下
月々の返済額は3分の1または2分の1に大きく減額されるうえに、利息が余分に増えるわけではありません。
「就職をしたが、思っていたよりも給料が少ない」などの理由から毎月の返済が苦しいという方は、減額制度の利用を検討しましょう。 -
(2)一時的に返済を待ってもらう
災害・傷病・経済的困難・失業などの理由で収入が激減または失われてしまい、減額されても返済が難しいという場合には、一定期間に限って返済が猶予される「返還期限猶予」を申請することができます。
利用できる収入の基準は、以下の通りです。- 給与所得者……年間収入が300万円以下
- 給与所得以外の所得がある場合……年間収入が200万円以下
月々の返済額を小さくしてもらう場合と同様に、こちらについても1回の申請で12カ月の猶予が適用され、最長で10年の猶予が可能です。
「突発的な事情で収入が一切なくなってしまった」という場合には、無理をせずに、返還期限猶予を利用することをおすすめします。
3、債務整理の種類|特徴と注意点
「債務整理」とは、借金を法的に減免して解決するための方法です。
債務整理には任意整理・個人再生・自己破産の3種類が存在します。
以下では、各手続きの特徴と注意点について、特に奨学金返済に苦しんでいる場合に照らしながら、紹介いたします。
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(1)任意整理
任意整理とは、借主(債務者)と貸主(債権者)の間で話し合い、利息のカットや返済期間の延長によって無理なく返済を続ける手続きです。
裁判所を介さずに個々の貸主との間で借金を整理していくことができるので、たとえば「複数の借金があるが1社だけ計画に無理があるので負担を減らしたい」といったケースに適しています。
消費者金融やクレジットカード会社が相手となった場合の年利は15~20%なので、長期にわたって返済が続く場合は利息がカットされるだけでも高い減額効果が期待できます。
ただし、奨学金の金利は1%未満であるため、たとえ利息がカットされても減額効果は低いでしょう。
月々の負担さえ軽くなれば十分に返済可能である場合には、奨学金制度の範囲で減額を申請したほうが賢明だといえます。
任意整理をすると信用情報機関に事故情報が登録されてしまうので、今後のローン申し込みなどで不利に陥らないためにも、まずは減額制度を利用しましょう。 -
(2)個人再生
個人再生とは、裁判所に再生計画案を提出して許可を得ることで、利息だけでなく元本の減額も期待できる手続きです。
100万円以上500万円以下の借金であれば、元本が100万円まで減額されたうえで利息もカットできる可能性があります。
特に奨学金の返済がはじまったばかりであり、元本の残額が大きい場合には、高い減額効果が期待できるでしょう。
ただし、個人再生を利用するためには再生計画案に従った返済を確実に守る必要があります。
「就職できない」「失業した」といった状況では、安定した収入がないため利用できません。
また、すでに返済をはじめてある程度の期間が過ぎており元本が順調に減っている状況であれば、減額効果は低くなるのです。
一時的に収入を失っているだけなら、まずは奨学金制度のなかで猶予を申請することをおすすめします。 -
(3)自己破産
裁判所に破産を申し立てたうえで、財産を整理して貸主への返済にあてることで借金がゼロになるのが、自己破産です。
失業などで支払い能力がない場合に利用できるため、「一時的に収入が減った」といったケースでは利用できません。
奨学金だけでなくほかの借金も負っており、現実的に返済不能な状況であれば、自己破産は有効な解決策でとなります。
ただし、自己破産をすると本人の借金は全額免除されますが、保証人の責任までは免除されないという点には注意を払う必要があります。
奨学金を利用している方の多くは、保護者を保証人として契約を結ばれています。
そのような場合には、本人が破産することで奨学金返済を免除されると、親や親類などの保証人が代わって奨学金の返済を求められることになります。
また「自己破産をして奨学金以外の借金の返済は免れるが、奨学金だけは返済を続ける」といった方法は認められません。
自己破産は、すべての借金を整理の対象とする手続きです。
特定の貸主だけに返済を続ける行為は「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼ばれる違反行為であり、他の債権者を害する行為ですので、このような行為をすると、裁判所による破産、免責許可決定がえられなくなるという危険性が高まります。
ほかの借金が多額で現実的に返済が不可能という状況であれば、自己破産も有効な選択肢のひとつです。
しかし、返済に苦しんでいる借金が奨学金のみである場合には、一時的に猶予を受けたうえで、収入・生活を立て直しながら返済を続けることをおすすめします。
4、債務整理は弁護士に相談するべきなのか?
奨学金の返済が苦しく、なんとか負担を軽くしたいと考えて債務整理を検討しているなら、まずは弁護士にまでご相談ください。
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(1)返済に向けたアドバイスを求めるなら弁護士への相談は有効
借金問題の解決実績が豊富な弁護士に相談すれば、奨学金の返済に向けてどのような対策を講じるべきなのかについて、アドバイスが得られます。
奨学金制度のなかで減額・猶予を利用しながら、ほかの借金返済の負担を債務整理によって軽減するといった解決策の提案も得られるでしょう。
「債務整理が有効なのか、債務整理は避けるべきなのか」について法律に基づいた適切な判断をするためにも、まずは弁護士にまでご相談ください。 -
(2)奨学金以外の借金がない場合は軽減・猶予を利用したほうがよい
借金に関する問題は、放置しているだけでは解決できません。
どうしても返済が難しい場合は、債務整理による解決も積極的に検討するべきでしょう。
ただし、奨学金の返済が苦しいだけでほかの借金がない場合は、債務整理によるさまざまな不利益を回避するためにも、まずは奨学金制度のなかで用意されている減額・猶予制度を活用して解決することをおすすめします。
債務整理をすると、どの方法を選択しても、信用情報に傷がついてしまう事態を避けられません。
活用できる対策を尽くしたうえで、それでも現状を打開できないときには、弁護士に相談したうえで、債務整理を検討しましょう。
5、まとめ
奨学金の返済が苦しいときは、奨学金制度のなかで一時的な減額・猶予制度の利用が可能です。
無理に返済を続けてほかの借金を増やしてしまったり、減額・猶予を利用せずに延滞してしまったりすると、大きな不利益をまねくことになってしまうのです。
沖縄県内で奨学金の返済にお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスにまでご相談ください。
返済に向けた具体的なアドバイスをお伝えしながら、債務整理による解決が必要かどうかについて、弁護士が適切に判断いたします。
奨学金だけでなく、ほかの借金もかさんでしまって返済できないといった場合は、債務整理の手続きに関するご相談も承っております。
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