常習累犯窃盗とは? 窃盗罪との違いや刑罰を解説

2024年04月25日
  • 財産事件
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常習累犯窃盗とは? 窃盗罪との違いや刑罰を解説

沖縄県警察が公開している「犯罪統計書」によると、令和5年中に沖縄県内で窃盗犯として検挙されたのは1354人でした。窃盗罪は極めて再犯率が高い犯罪です。令和5年版の犯罪白書によると、窃盗罪で出所した受刑者が5年以内に再び刑務所へと収監された割合は満期釈放で50.9%であり、統計データからも再犯率が高いことが実証されています。

また、窃盗罪がほかの犯罪と異なるのは、再犯率の高さだけではありません。何度も窃盗犯として刑罰を受けていると、窃盗罪よりも厳しい「常習累犯窃盗」として処罰されます。常習者を別の犯罪としてより厳しく罰する規定があることも、窃盗罪の特徴です。

本コラムでわかることは、大きく以下の3つです。
・「常習累犯窃盗」の意味や成立要件
・窃盗罪との違い
・窃盗事件で弁護士がサポートできること

ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスの弁護士が解説します。


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1、「常習累犯窃盗」とは

まずは、「常習累犯窃盗」とはどのような犯罪であるかを解説します。

  1. (1)常習累犯窃盗の根拠と意味

    常習累犯窃盗は「盗犯等の防止および処分に関する法律」に定められています。
    この法律は、正しくは「昭和5年法律第9号(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律)」という名称です。
    しかし、非常に古い法律であるためにカナ表記となっていることから、通称として「盗犯防止法」と呼ぶのが一般的です。

    同法第3条によると、常習として刑法第235条「窃盗罪」またはその未遂罪を犯した者には3年以上の有期懲役に処することが定められています

  2. (2)常習累犯窃盗が成立する要件

    常習累犯窃盗が成立する要件は次の2点です。

    • 「常習」であること
    • 窃盗罪または窃盗未遂であること


    ここでいう「常習」とは、過去10年以内に窃盗・窃盗未遂罪(または窃盗罪と他の犯罪との併合罪)で、懲役6カ月以上の刑の執行を3回以上受けて刑務所に収監された経歴があることを指します
    日ごろから窃盗の習癖があるものの逮捕や検挙されたのは初めてである場合や、以前の事件では執行猶予つきの判決や罰金が言い渡されて刑務所には収監されなかったといった場合は、対象外になります。

    窃盗罪は非常に再犯率が高い犯罪であるため、窃盗犯のなかには何度も刑務所に収監されて、出所しても窃盗を繰り返す者が少なくありません。
    したがって、期間や回数を定めて、犯行を繰り返した窃盗犯を「常習」として通常の窃盗犯よりも厳しく罰するために、常習累犯窃盗が規定されているのです。

2、常習累犯窃盗と窃盗・累犯との違い

以下では、常習累犯窃盗と窃盗の違いについて解説します。

  1. (1)常習累犯窃盗と窃盗は法律の根拠が異なる

    常習累犯窃盗と窃盗は、そもそも処罰の根拠となる法律が異なります
    基本となる窃盗は「刑法」第235条に定められている犯罪ですが、常習累犯窃盗の処罰の根拠となる法律は、刑法ではなく「盗犯防止法」です。常習累犯窃盗は、この盗犯防止法により、通常の窃盗よりも厳しく処罰されることになるのです。

    このように、ある犯罪行為をより厳しく処罰するための規定を「加重規定」といいます。
    刑法に定められている犯罪の常習者について、別の法律によって加重規定が設けられているのは、常習累犯窃盗だけとなります。

  2. (2)常習累犯窃盗と窃盗の累犯は刑罰の重さが異なる

    このように常習累犯窃盗は、盗犯防止法により窃盗よりもさらに厳しく処罰される犯罪です。
    ただこの盗犯防止法が規定する常習累犯窃盗とは別に、刑法は「累犯」という別の加重規定も設けているため、常習累犯との区別がつきにくいという一面もあります。

    「累犯」とは、刑法第56条・59条に定められている加重規定です。
    懲役に処せられた者がその執行を終えた日またはその執行の免除を得た日から5年以内にさらに罪を犯した場合で、その者を有期懲役に処するときを「累犯」といいます。
    刑法の条文においては「再犯」と表記されており、三犯以上を「累犯」と表記していますが、意味は同じです。

    累犯には、刑法第57条によって「その罪について定めた懲役の長期の2倍以下」の刑罰が科せられます
    刑法の理屈でいえば、二度目や三度目でも区別はありません。
    たとえば、窃盗罪で懲役が科せられる場合、懲役の上限は「10年」ですが、累犯では刑法57条に基づき、その上限が2倍になるので「20年」となります。

    常習累犯窃盗の刑罰は「3年以上の有期懲役」で、有期懲役の上限は20年なので、上限だけをみれば刑の重さに違いはないようにみえます。
    ところが、通常の累犯で加重されるのは上限だけで、下限は影響を受けません。
    懲役の下限は1カ月なので、刑法の理屈だけでいえば窃盗罪の累犯でも1カ月の懲役といった判決が下される可能性があります。
    しかし、常習累犯窃盗では「3年以上」という下限が設けられているために、最短でも3年を下回る懲役が科せられることはないのです。

    つまり、「最短でも3年以上の懲役が科せられると」という点において、常習累犯窃盗は窃盗罪や窃盗罪の累犯よりも重い刑罰が予定されている、ということになるのです

3、常習累犯窃盗では執行猶予はつかない?

常習累犯窃盗として捜査されたり逮捕されたりした場合について、「執行猶予はつかないのか?」という不安を感じる方もおられるでしょう。

判決に執行猶予がつけば、刑の執行が一定期間に限って猶予されるだけでなく、その期間に罪を犯さなかった場合には刑の執行が免除されます。
有罪が避けられない状況でも、刑務所に収監されずに社会生活を送りながら罪を償うことが許されるために、起訴された方は執行猶予を目指すことになるのです。

  1. (1)執行猶予がつく条件

    執行猶予がつく条件は、刑法第25条にて、以下のように定められています。

    • 「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」の言い渡しであること
    • 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない
    • 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終えた日、または執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない


    ここでいう「禁錮以上の刑」とは、懲役と禁錮のことを指します。
    つまり、以前の犯罪で科せられた刑罰が罰金・拘留・科料であった場合には「禁錮以上の刑に処せられたことがない」ということになります。

    なお、執行猶予の条件を満たしていても、必ず執行猶予がつくわけではありません
    条文で「猶予することができる」と表現されているように、裁判官の判断次第では、執行猶予がつかないこともあるのです。

  2. (2)「懲役3年」なら執行猶予がつく可能性がある

    常習累犯窃盗は窃盗犯を厳しく処罰するための犯罪であるため、厳しい処分が予想されます。
    しかし、執行猶予の可能性がないわけではありません。

    刑法の定める条件に照らすと、執行猶予がつく可能性がある上限は「懲役3年」となっています。
    常習累犯窃盗の刑罰は「3年以上の有期懲役」であり、懲役の下限は3年なので、判決が「懲役年」であれば執行猶予がつく可能性があるのです

    ただし、過去に実刑判決を受けて刑務所に収監された経歴があると、窃盗犯の常習として審理されることになるため、厳しい処分は避けられないでしょう。
    法律上は対象に含まれていても執行猶予がつく可能性は低くなってしまうため、深い反省を示して、被害者への弁済を尽くすことが必要になります。

4、常習累犯窃盗でも「クレプトマニア」なら無罪?

従来、窃盗をはたらく理由は「金銭苦のため」「物欲を満たすため」といったものが主流だと考えられていました。
しかし、近年では窃盗症、いわゆる「クレプトマニア」が原因で起こる窃盗罪にも注目されるようになったのです。

  1. (1)クレプトマニアとは

    クレプトマニアとは依存症のひとつであり、悪いことだとわかっていても窃盗をやめられないことを指します。
    クレプトマニアの方は衝動的に窃盗を繰り返してしまうため、窃盗の累犯や常習累犯窃盗として厳しく処罰される危険があります。

    クレプトマニアは依存症という病気であるため、自分の意思で窃盗をやめるのは困難であり、専門医による治療が必要となります

  2. (2)クレプトマニアだからといって無罪になるわけではない

    クレプトマニアが依存症のひとつであるという説明を聞いた方のなかには、「病気のせいで窃盗を犯してしまうなら、刑事裁判でも無罪になるのではないのか?」と考える方おられるかもしれません。

    たしかに、刑法第39条1項には、心神喪失者の行為は罰しない旨が規定されています。
    しかし、裁判などにおいて「自らの意思による行為ではないので、クレプトマニアも心神喪失者にあたる」と判断される可能性は、極めて低いといえます。

    「心神喪失」とは、ものごとの善悪を弁識する能力と、その弁識に従って行動を制限する能力の両方を欠いた状態です。
    このような定義に照らすと、善悪の判断やその制御ができないクレプトマニアは心神喪失状態であると判断されるようにみえるかもしれません。
    しかし、実際に専門医からクレプトマニアであると診断されていても、裁判所は心神喪失を認めない傾向が強く、無罪が言い渡された事例はほぼありません
    さまざまな精神障害が複合的に生じているようなケースでは無罪となる可能性があるものの、単にクレプトマニアであることを理由にして無罪を主張するのは、困難なのです。

5、窃盗事件における弁護士のサポート

常習累犯窃盗やその他の窃盗事件でお困りの場合、弁護士にまでご相談ください。

  1. (1)逮捕時の早期釈放に向けたサポートが期待できる

    警察に逮捕されると、逮捕段階で72時間、勾留によって20日間、合計で最長23日間にわたる身柄拘束を受けるおそれがあります
    社会から隔離される期間が長くなると、社会生活上でも解雇や退学といった不利益な処分を受ける危険があるため、早期釈放に向けた行動を速やかに起こすことが重要になります。

    弁護士は、身柄拘束による不利益を防ぐために、早期釈放に向けたサポートを尽くします
    弁護士が家族による十分な監督を主張して身柄拘束を解くよう捜査機関にはたらきかけたり、勾留決定に対する不服申し立てである「準抗告」といった手続きを取ったりすることで、早期釈放を目指すことができるのです。

  2. (2)処分の軽減に向けたサポートも期待できる

    常習累犯窃盗は、通常の窃盗と比べると厳しい処分を受けやすい犯罪です。
    少しでも処分を軽減したいと考えるなら、弁護士によるサポートは欠かせません。

    弁護士は、「被害者との示談を成立させる」「裁判官に本人の深い反省やクレプトマニアの治療計画などを示す」といった具体的な弁護活動を講じて、処分が軽減されるようにはたらきかけます。
    クレプトマニアに加えて重度の精神障害が存在している状況であれば心神喪失を主張できる可能性もありますが、その場合も医学的な角度から証明する必要があるために個人で対応することは困難であるので、弁護士に対応を依頼する必要があるでしょう。

6、まとめ

「常習累犯窃盗」に問われると、通常の窃盗罪よりも厳しい刑罰が科せられることになります
被害総額や被害者の総数などを考慮すれば、実刑判決を免れるのは難しい場合も多々あります。

しかし、常習累犯窃盗だからといって必ず実刑判決が言い渡されるわけでもありません。
法律の定めに照らすと執行猶予が付される可能性は残されているので、早い段階から弁護士にサポートを求めて、早期釈放や処分の軽減を目指した弁護活動を行うことが重要になります。

常習累犯窃盗や窃盗の容疑をかけられてしまい、お困りであれば、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください
沖縄県にお住まいの方は、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスにまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています