身元引受人とは? なれる条件や義務、リスクを弁護士が解説
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もし、あなたが刑事事件を犯した身近な方から、「逮捕されそうだから身元引受人になってほしい」などと頼まれたら、どうすべきか悩むのではないでしょうか。
そもそも身元引受人になる条件はあるのか、具体的に何をすればよいのか、リスクはないのかなど、いざ自分が身元引受人を依頼されたとき、戸惑いが生じても無理はありません。
そこで本コラムでは、身元引受人になる条件や注意点について、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスの弁護士が解説します。
1、身元引受人の役割と必要な場面
身元引受人とは、被疑者や被告人が身柄を解放されたあと、その生活や行動を監督する者を指します。被疑者や被告人が釈放されるために重要な存在と言い換えることもできるでしょう。
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(1)身元引受人が必要な場面
刑事事件において身元引受人が必要となるのは、捜査機関等に身柄拘束された者が身柄の解放を求める場面です。
具体的には次のケースが考えられます。
●微罪処分
ごく軽微な一定の事件に限り、警察の捜査段階で微罪処分として扱われ、釈放されることがあります。身元引受人がいると、微罪処分として処理するか否かの判断において一定の考慮がなされます。
●逮捕後勾留決定前
被疑者として逮捕されてしまった場合でも、最大20日間も身柄を拘束される起訴前勾留を回避することができれば、被疑者は身柄拘束を解かれ、日常生活を送ることも可能となります。
このとき身元引受人がいると、勾留までは不要であるとして、勾留を回避できることがあります。
●勾留決定後
勾留決定がなされると被疑者は最大20日間、身柄を拘束されることになります。しかし、この勾留決定を争う手続きとして「準抗告」という制度が用意されています。準抗告が認められ、勾留決定が取り消されると、被疑者は身柄拘束から解放されることになります。
この準抗告が認められる要件のひとつとして「被疑者に逃走のおそれがないこと」があります。被疑者が逃走しないことを示すために、被疑者を監督する身元引受人の存在が重要です。
●起訴後
最大20日の起訴前勾留を経て起訴されると、被告人の身柄拘束が継続したまま刑事裁判へと移行することになります。しかし一定の要件を満たし、保釈保証金を納付することで、裁判所の裁量等で保釈してもらうことができます。
裁判所の裁量等による保釈決定を求める場合にも、被告人が罪証隠滅を行わないことや被告人に逃亡のおそれがないことを示すために、被告人を監督する身元引受人がいることが重要になります。
また、起訴されて有罪判決を受けることになったとしても、判決が執行猶予付きの判決であれば、猶予期間中に罪を犯さないことを条件に刑務所への収監は免れます。裁判所が執行猶予付きの判決を出すか否かを判断するにあたり、被告人を監督する身元引受人の存在が重要になります。
●判決確定後
実刑判決が確定し、刑務所に収監されてから一定の期間を過ごし、再犯のおそれがないなどの条件を満たすと、仮釈放が認められる場合があります。実務の運用上、この仮釈放が認められるためには、適格な身元引受人の存在が重要になります。 -
(2)身柄拘束を解くのに身元引受人は必須?
前述した身柄拘束を解くことを認める場面において、必ずしも「身元引受人がいなければ身柄拘束が絶対に解かれない」ということではありません。一方で、身元引受人がいるだけで身柄拘束が必ず解かれるというわけでもありません。
しかし、被疑者や被告人の身柄拘束が解かれるには、いずれも逃亡や罪証隠滅のリスクがないことが重要になります。いくら被疑者・被告人本人が「そんなことはしない」といったところで、監督者不在の状況下であれば、逃亡や罪証隠滅がなされる可能性は否定できません。
身元引受人がいるという事実は、被疑者・被告人等の身柄拘束を解くための有利な材料となります。
さらに身元引受人がいることが、検察官が、当該事件を起訴猶予とするかどうかを判断する材料のひとつとなることもあります。
このように身元引受人の存在は、被疑者や被告人本人のためには事実上、非常に重要な存在といえます。
2、身元引受人になったら行うこと
身元引受人になったとしても、何か特定の行動を義務づけられることや、裁判所や捜査機関から逐一確認の連絡が入ることはありません。しかし、特別な決まりがないからといって何もしないというのであれば、身元引受人に期待される役割を果たしているとはいえません。
身元引受人は、最低限下記のような役割を果たすことが期待されています。
- 本人が逃亡や証拠隠滅を図らないように監視する
- 捜査機関から呼び出しがあった場合に出頭させる
- 公判期日に出廷させる
また、身元引受人として被疑者や被告人の更生を促すこともできれば、なおよいでしょう。
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3、身元引受人になれる条件
身元引受人は、誰がならなければいけないといった決まりはありません。
特定の条件がないといえども、被疑者・被告人を監督するのに適した人物でなくてはなりません。監督の意思があり、健康面や経済面からしても監督できる人が望まれます。
通常は、被疑者・被告人の親や配偶者、兄弟姉妹などの親族がなるケースがほとんどです。特に同居親族は生活を監視できるため、適性が高いと考えられるでしょう。
しかし、親族がいない人や親族に拒否された人などは、親族以外に身元引受人の打診をすることがあります。
比較的よくあるのは被疑者・被告人の勤務先の上司などです。仕事の時間は1日の大半を占めることを考えても、会社の社長や上司にはその適性があるといえるのかもしれません。
場合によっては、弁護士が身元引受人になることが認められるケースもあります。そのほか、被疑者の同僚や友人、知人、恋人などでも理論上は可能です。
ただし、一緒に悪さをしていたような友人や前科のある人、反社会勢力と関わりのある人では不適切だと判断されやすいでしょう。
4、身元引受人に生じるリスク
身元引受人がついたあとに、被疑者・被告人が逃走・罪証隠滅等を行ったような場合でも、身元引受人自身が民事上、刑事上の責任を問われることはありません。ただし、身元引受人としての信頼は失われるため、別の事件で再度身元引受人になることは難しくなります。
また、起訴後の保釈において、身元引受人が保釈保証金を出していたのに本人が逃亡すれば、保釈保証金が没収される可能性はあります。
さらに受刑者の仮釈放の身元引受人となる場合には、身元引受人に住所変更があると再審査となってしまうため、身元引受人はむやみに引っ越しできないなどの注意点があります。
5、身元引受人は途中で辞退できる?
身元引受人を頼まれたとしても、引き受ける義務はありません。したがって、打診を受けた時点で断ることができます。たとえ親であっても、「犯罪者の親になったつもりはない」などといって断る方もいるのです。
また、承諾したあとに辞退することもできます。ただし、受刑者の仮釈放後の身元引受人については、辞退するべき理由が生じたのであれば、担当の保護司や保護観察所へ相談する必要があります。
6、まとめ
身元引受人は、被疑者や被告人の身柄拘束が解かれるために重要な役割を担っています。身元引受人になっても法的なリスクを負うものではありませんが、被疑者や被告人をしっかり監督し、更生をサポートできる人が望ましくあります。
身元引受人を打診されて不安に感じているのであれば、事前に弁護士へ相談されるとよいでしょう。ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスでもご相談をお受けしますので、一度ご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています