潮干狩りをしているだけで逮捕されるかも!? 漁業調整規則違反とは

2021年04月27日
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潮干狩りをしているだけで逮捕されるかも!? 漁業調整規則違反とは

令和3年3月、那覇海上保安部は、那覇市沿岸漁業協同組合で船長の男性と、乗組員2人を漁業法違反の容疑で送検したと報道されました。3人は、許可を受けた区外で漁業を行い、イセエビや夜行貝、なまこなどを採取し競りに出荷した疑いがもたれています。

このように、ルールを逸脱して海産物を採取することは違反行為ですが、軽い気持ちで魚介類を捕ったり拾ったりすることでも、逮捕される可能性があります。今回は、その根拠となる漁業調整規則の違反について、那覇オフィスの弁護士が解説します。

1、海で遊ぶときに知っておきたい法律

まずは、海へレジャーに出掛ける前に、水産物に関する法律の決まりについて知っておきましょう。水産物に関する法律は、主に漁業法・水産資源保護法・漁業調整規則の3つがあります。

  1. (1)漁業法

    漁業法とは、海で誰がどのように漁業を行うことができるのかを定めた法律です。具体的には、ある海域で特定の漁業を排他的に営むことのできる権利である漁業権や、水産資源保護のためにその採捕に関する指示をすることのできる漁業調整委員会について定めています。

    漁業協同組合が共同で漁業を営むことのできる共同漁業権が設定されている区域では、組合員以外の者がアワビ・ワカメ・エビなどの貝類や海藻類、水産動物などを採捕すると、漁業権の侵害にあたるとして100万円以下の罰金に処せられる可能性があります

    また、潮干狩りや釣りなどをする際に、漁具・漁法・体長などの制限や禁止区域が設けられることがあるので注意が必要です。その際、漁業調整委員会の指示に従わない場合は1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金等となります。

    なお、令和2年12月の漁業法の改正により、密漁に対する罰則が大幅に強化されています。改正漁業法については、こちらの記事をご確認ください。

  2. (2)水産資源保護法

    水産資源保護法とは、水産資源を保護・培養してその効果を維持し、漁業を発展させることを目的として制定された法律です。

    農林水産大臣もしくは都道府県知事の許可を得ずに保護培養の必要のある水産資源を採捕した場合や、爆発物や有毒物を使用して水産動植物を採捕・所持・販売した場合は、3年以下の懲役または200万円以下の罰金に処せられます。また、サケを河川や湖沼など一定のうち水面で採捕した場合は、1年以下の懲役または50以下の罰金になる可能性があります。

  3. (3)都道府県漁業調整規則

    漁業調整規則とは、漁業法や水産資源保護法に基づき、漁具・漁法、体長制限、禁止期間、禁止区域などについて都道府県ごとに定めたものです。この規則により、漁業を行う者もしくは起業しようとする者は、都道府県知事の許可もしくは認可を得るために、所定の様式の申請書を提出することが義務付けられています。許可を得た後には、当該許可にかかる漁業の許可証を携帯することになっています。

    一方、漁業を行わない者に対してもルールが定められています。地域によって、していいこと・いけないことが異なりますので、釣りや潮干狩りなどで遠方に出向く際には、その地域の漁業調整規則に書かれたルールについて調べておきましょう。

2、沖縄における漁業調整規則

沖縄県の沿岸部では、本土の沿岸部では見られないような珍しい水産動植物も数多くおり、それらが育成・保護の対象となっているケースもあります。

ここでは、沖縄県の漁業調整規則におけるルールについて解説します。沖縄県漁業調整規則は昭和47年に施行後、複数回にわたり改正がなされており、直近では令和2年12月1日に改正が行われました。

  1. (1)使用してはいけない漁具・漁法

    一般の方が水産動植物を採捕するときには、使用してはいけない漁具や漁法があります。採捕時に使用すると罰せられる可能性がありますので、注意しましょう。
    使ってはいけない漁具・漁法は以下の通りです。

    • カニカゴ
    • 水中銃
    • 刺網などの網漁具
    • スキューバなどの潜水器具 など
  2. (2)捕ってはいけない水産動植物

    沖縄県では、時期に関わらず、以下のものを採捕してはならないと定められています。また、不法に採捕したそれらの所持・販売も禁止されています。

    • カメ類が産んだ卵
    • 造礁サンゴ類(イシサンゴ目、アナサンゴモドキ目、ヤギ目、クダサンゴ目、アオサンゴ目)
  3. (3)水産動植物により捕ってはいけない期間がある

    特定の水産動植物は、繁殖期にかかるなどで捕ってはいけない期間が定められています。該当する水産動植物と採捕が禁止されている期間は以下の通りです。

    水産動植物名 禁止期間
    うみがめ類(たいまい、あおうみがめ、あかうみがめなど) 6月1日 ~ 7月31日
    しゃこがい類(ひめじゃこ、しゃごう、ひれじゃこ、しらなみ、
    ひれなしじゃこ、おおじゃこ、とりがしらなみ)
    6月1日 ~ 8月31日
    いせえび類(かのこいせえび、しまいせえび、ごしきえび、にしきえび、
    けぶかいせえび、いせえび、ねったいいせえび、あまみいせえび)
    4月1日 ~ 7月31日
    せみえび類(せみえび、こぶせみえび) 4月1日 ~ 7月31日
    ※抱卵個体は周年採捕禁止
  4. (4)体長などに制限が設けられている生物も

    沖縄県の漁業調整規則では、育成・保護の観点から、採捕しても良い体長に制限が設けられている水産動植物もいます。ただし、漁業権もしくは入漁権に基づいて種苗として採捕する場合は例外的に採捕が認められる場合があります。

    体長などが制限されている水産動植物には、一例として下記のような水産動植物が指定されています。

    名称 大きさ
    くろちようがい 殻高10センチメートル以下
    夜行貝 殻高13センチメートル以下
    さらさばてい(高瀬貝) 殻の短径6センチメートル以下
    ちようせんさざえ(玉貝) 殻高6センチメートル以下
    ひめじゃこ 殼長8センチメートル以下
    たいまい 腹甲の長さ25センチメートル以下
    いせえび類 体長20センチメートル以下
    うなぎ 全長13センチメートル以下
  5. (5)保護水面に注意

    沖縄県内では、水産資源の保護・培養のため、石垣島の川平湾と名蔵湾の2か所を保護水面に指定しています。川平保護水面では、魚類、たこ類、いか類およびひとえぐさ以外の水産動植物が、名蔵保護水面ではすべての水産動植物の採捕が1年を通して禁止されています。

    海のレジャーなどで近くにいらっしゃる際には、注意が必要です。

  6. (6)罰則規定

    たとえ遊びとはいえ、使用が禁止されている漁具・漁法を使用したり、採捕してはいけない体長・種類の水産動植物を捕ったりした場合は、沖縄県漁業調整規則や漁業法違反となります。

    漁業調整規則違反の場合は、最高で6か月以下の懲役、もしくは10万円以下の罰金に処せられます。なお、令和2年の改正により漁業法は罰則も強化されており、最大で3年以下の懲役もしくは3000万円以下の罰金となる可能性があります。くれぐれも注意しましょう。

3、漁業調整規則違反の罪を犯すとどうなる?

たとえ遊びのつもりでも、漁業調整規則違反になる行為をした場合、刑事罰を受ける可能性があります。ここでは、漁業調整規則に違反するとどのような流れになるのかについて見ていきましょう。

  1. (1)事情聴取・逮捕

    実際に違反行為をしている姿が目撃されていた場合は、海上保安庁の職員が現場に駆けつけ、その場で事情聴取を行います。罪の程度が重ければそのまま逮捕となりますが、軽ければ後日その漁場を管轄する海上保安庁に出頭し、取り調べを受けます。その後は、通常の刑事手続きと同じように、検察庁に送致されます。

    また、船舶を利用して違反行為をしていた場合は、その船長に対して漁具や漁ろう装置などの設備を陸揚げして封印することを命じられることがあります。

  2. (2)勾留の決定

    送検された後、24時間以内に勾留されるかどうかが決まります。逃亡や証拠隠滅のおそれなどがある場合は、勾留される可能性が高いと言えるでしょう。勾留が決定すれば、そこから10日間身柄を拘束されることになります。捜査に時間がかかるなどで10日目に勾留延長が決定した場合は、さらに10日間拘置所にとどまります。

  3. (3)起訴・不起訴の決定

    検察庁でも取り調べを受けた後、検察官が起訴するかどうかを判断します。初犯の場合や罪の程度が軽い場合は不起訴処分や起訴猶予処分となる可能性があります。このどちらかの処分が下れば、その時点で被疑者の身柄は解放され、前科が付くことを避けられるため、いかにこれらの処分を獲得するかが重要です。

  4. (4)裁判・処分の決定

    起訴された場合は裁判に進みます。裁判では違反事実の有無や罪の軽重などが争われます。日本ではいったん裁判になれば、約99%有罪判決を受けることになりますが、初犯の場合や違反行為の程度が軽い場合は、執行猶予付きの判決が下される可能性もあります。また、罰金刑で済むこともあるでしょう。逆に、前科がある場合や違反行為の程度が重い場合は懲役刑を受けて刑務所に入らなければならなくなることも少なくありません。

4、不起訴を勝ち取るためにできること

大切な家族や友人が漁業調整規則違反の疑いで逮捕されてしまったら、気が動転してしまう方が多いでしょう。しかし、早期に問題解決に向けて動き出さなければ、時間がたてばたつほど解決が難しくなります。そのため、まずは弁護士に相談し、アドバイスを受けることをおすすめします。

  1. (1)弁護士に相談する

    家族や友人などの身近な方や自分自身が逮捕されたら、できるだけ早いタイミングで刑事事件の経験が豊富な弁護士に相談しましょう。逮捕後72時間以内は家族でも会えない状態となりますが、弁護士であれば面会可能なので、取り調べで不利な状況にならないように受け答えの仕方について被疑者にアドバイスをしたり、メンタル面をサポートしたりすることもできます。また、被疑者の様子についてご家族の方に伝えることも可能です。

    初動が早ければ早いほど、早期釈放や不起訴処分を勝ち取れる可能性が高くなります。

  2. (2)示談交渉を行う

    事件の早期解決を図る方法のひとつに、示談交渉があります。漁業権を侵害した場合は相手方と示談交渉がまとまれば告訴を取り下げてくれる可能性もあります。漁業権侵害の罪は被害者が刑事告訴をしなければ罪に問われない「親告罪」にあたり、告訴を取り下げてもらえれば捜査機関はそれ以上捜査ができなくなるからです。

    その他の罪でも、示談交渉を成立させることができれば、意見書にその旨を記載して捜査機関に提出することで捜査機関や裁判官の心証が良くなり、早期釈放に結びつく可能性が高まるでしょう。

  3. (3)反省文を書く

    犯した罪に対して反省の意を示すために反省文を書くことも一定の効果があります。家族で海に遊びに来た際に違反行為をしてしまった場合は、家族にも本人がしっかり反省していること、今後は家族も本人のことをきちんと監督・指導していくことを文書に明記することで、捜査機関や裁判官に良い印象を与えることができ、早期釈放もしくは不起訴になる確率も上がるでしょう。

  4. (4)贖罪(しょくざい)寄付をする

    早期に身柄を解放してもらうために、贖罪寄付をする方法もあります。贖罪寄付とは、反省の意を示すために慈善団体などに寄付することです。寄付をすれば、捜査機関や裁判官にそのことが評価されて不起訴処分になる可能性や、裁判になったとしても量刑が軽く済むもしくは執行猶予付きの判決になることが考えられます。贖罪寄付をしたことは、判決書の「量刑の理由」欄にも記入されることが一般的です。

5、まとめ

よく言われることですが、魚介類などの水産資源には限りがあります。そのために、漁業調整規則をはじめとするさまざまな法律で採捕に関して規制がされているのです。遊びのつもり、食事の材料にするつもりでしたことでも、漁業調整規則などの違反行為にあたれば刑事告訴される可能性も十分にあります。

もし、あなたにとって大切な誰かが、もしくは自分自身が漁業調整規則違反の疑いで海上保安庁から事情聴取を受けた場合や逮捕されてしまった場合は、ベリーベスト法律事務所 那覇オフィスまで早急にご連絡ください。ベリーベスト法律事務所では、ご連絡をいただいてから30分以内に刑事事件の経験が豊富な弁護士とお電話で話ができる体制を整えております。早期釈放を目指すには初動をいかに早くできるかが勝負です。一人で悩まず、すみやかに当事務所までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています